境征参加 | ナノ



「あんの変態男がぁ……!」


彼女は政宗の姿が完全に見えなくなってからようやくその口を開いた。

隣りで佐助が少しびっくりした。


「黙っていればあんなにも酷いことを……! あーもうムカつくよー! そして言い返せない自分も悲しいよぉぉぉ」


確かに彼が言ったことは正しい。性別以外は。

今の彼女の格好は浴衣。しかも柄物ではなく、薄水色で無地のものだ。質はいいが女が着るものとしては少し色味が足りないのは事実だろう。

しかしこれを選んだのは紛れもなく名前自身。


「くっそう……」


布団に倒れこみ、足をばたつかせながら枕にストレスをぶつける。それで軽減されるわけもなく、彼女の怒りは沸々と煮えていた。


「確かにアレは言いすぎだよねー」

「佐助……!」


傍らで座っていた佐助がうんうんと頷く。名前は感激した目で佐助を見つめた。


「旦那たちが衆道に興味あるわけないじゃん」

「そこなのか……!」


がっくりと項垂れる彼女に佐助はカラカラと笑う。


「嘘嘘。ちゃんと君にも女の子らしいとこあるってぇ」

「何処」

「その言葉遣いとか、一人称私とか」

「……見た目は?」

「えと……顔つきが女の子っぽいよ」

「女だよ! 元から女だよ!!」

「ごめーん」

「畜生、いつか見返してやる……」


新たな決意を胸に枕を抱きしめていると、ふと脇の佐助が溜息をついた。


「しっかし、とんでもないことになっちゃったねぇ」


溜め息を吐く佐助に名前の怒りもちょっと冷めた。


「……すみませんです」

「ほんとだよー」

「で、でも風呂場のすぐ前で待ち伏せてたんだよあの人! しかも足速いし何処までもついてくるし……」

「うわ。竜の旦那は粘着質だからねー。何か他に変なこと聞かれなかった?」

「や、別に」


捕まえられた後、彼は自分に「あの忍は何処だ」と聞いただけだった。他は何も聞かれていなかったはずだ。


「あーあ、また俺様の仕事が増えちゃう」

「……お疲れ様です」

「誰のせいだと思ってんの」


えい、とふざけたように額を叩かれた。そこはかとなく痛い。


「もう遅いし、さっさと寝な」


そう言って布団をかけられる。


「おやすみ」

「おやすみー」


そう言いあってから彼は灯りを消して、足音もなく部屋を出ていった。

名前も悪夢を見ないことを祈ってから瞼を閉じる。疲れていたせいで、意識は急激に落ちていった。




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