境征参加 | ナノ
「……遅いなぁ」
佐助は一人、離れで待ちわびていた。
名前が湯浴みに出てから一刻は過ぎている。普段から長風呂がちの彼女だが、流石に一刻はおかしい。
佐助の脳裏で、風呂でのぼせて倒れている名前の姿が浮かんだ。
「まさか、ねぇ」
湯浴みには風呂焚きが付いている。まさかのぼせたまま放っていることはないだろう。
彼女はここの客人扱いだし、もてなしもそれなりのものだ。
しかし、万が一ということもある。
良く言えば細心、悪く言えば心配性な佐助は脳裏に浮かんだ光景を打ち消せないでいた。
「……ちょっくら見てくるか」
大事な情報源である彼女をこんな瑣末なことで失うわけにはいかない。
それとはまた違う他の感情も彼の心を動かしたのだが、彼はそれをただの情と名付けた。
佐助はよっと立ち上がり、障子を開けて廊下に出る。
湯浴み場へ向かおうとして、奇妙な光景に出くわした。
「竜の旦那……?」
廊下の先には、風呂上りらしく手ぬぐいを首にかけている政宗がこちらに向かっていた。
だがその衣の裾は汚れている。しかも誰かの手を引いているようである。
そしてその後に続いたのは。
「……名前ちゃん」
佐助は目を見開いて彼女の名を呟く。
名前は佐助の姿を認めると、申し訳なさそうな顔で笑った。
「……ごめん、佐助。バレちゃった」
prev next
back