境征参加 | ナノ




「うお。今日も賑わってるなぁ」


信玄から頼みごとをされて一時間ほど後に、名前は上田城の城下町の入り口にいた。

その服装はいつもの袴姿ではない。この時代に来て初めての女物だ。

一応生物学上は女であるのだから外に出るときは女物にすべきだ、と清が名前を頑張って説得した結果であった。

説得の内容で再びやるせない気持ちになったのは秘密である。

周囲を忙しなく見回していると、溜息交じりの声が隣から掛けられた。


「前にも来た事あるんでしょ? きょろきょろしない」

「だってお母さん、幸村は茶屋しか連れて行ってくれなかったんだもの」

「旦那のことだからそうだろうと思ったけど。ていうかさ、前にも言ったけど俺様の性別分かってるよね。俺様そんなに主婦に見えるわけ?」

「ばっちり」

「嘘ん……」


隣に立っているのは、いつもの迷彩柄の忍装束ではなく、目立たない薄茶の着流しを着ている佐助だった。

しかし着物は地味だが、髪色はいつものごとく太陽光を鮮やかに反射していた。せめてもの手段か、後ろで一つにまとめている。

フェイスペイントすらない彼は別人に見えた。
気配も希薄で、流石は隠密命の忍である。口さがないのはいつものことだったが。

一人でも大丈夫と言ったのだが、信玄は佐助を連れて行かせた。

これではお使いの意味が無いと思ったが、自分の置かれている状況は理解している。

破格の待遇を受けているのだ。無理は言えないし、何よりわざわざ付いてきてくれるという佐助に申し訳が無い。


「冗談だってば。じゃ、行きましょっか」


そうして二人は雑踏の中に紛れ込んだ。





prev next
back


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -