境征参加 | ナノ
「あ、そういえばこれ返しとくね」
一瞬だけ、頭上から空洞の中に光が漏れ、そこから何かが投げ込まれた。
手探りで床をまさぐると、固いものに触れた。
触っただけで分かる。それは、先ほどまで己が必死に握っていた小刀であった。
「これ……」
「大将がくれたやつ。それ、小さいけど切れ味は抜群だから」
「……おいてきたかと思ってた」
「俺様に抜かりはないぜ」
佐助は得意げにそう言うと、こんこん、と蓋を叩いた。
「じゃ、行ってくんね。狭いけど、我慢して待ってて」
「うん。……気を付けてね。怪我、しないで」
「なるべくしないように、気を付けるよ。じゃ、また後で」
そう言って、佐助の声は途絶えた。
移動したのだろう。佐助は優秀な忍者だ。音もなく移動するなど造作もない。
本当に一人になった名前は、厚い布と小刀を抱きしめる。
これから、どれだけここで待つのかはわからない。
もしかしたら、迎えなど来ないかもしれない。なんて、自虐的な考えを思い浮かべては自嘲気味に笑った。
木の中は少しせまいけれど、体を小さくしていれば横にもなれそうだ。
布を折りたたんで簡易的な枕を作り、その上に頭を置いた。すると、体は正直なもので、徐々に瞼が重く感じてきた。
ここで少し眠るのもいいかもしれない。
そういえば今日は朝から動き回っていたなぁ、と先ほどまでのことを思い返していると、やがて眠りに落ちていった。
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