境征参加 | ナノ
木の中は案外広く、体育座りでなくとも座れるほどであった。
底には藁が敷かれ、厚い布も用意されていた。どうやら佐助が隠れ蓑として使用していたことがあったようだ。
中にあった蓋で入り口を塞いでしまうと、外からは中に人がいることなど気が付かないほど自然の状態に似ていた。
乾いた藁の匂いは、今まで嗅いだことはなかったが心地よく、厚い布もよく干されていて気持ちいい。
もぞもぞと藁を整えていると、頭上から声が降ってきた。
「名前ちゃん、そのまま聞いてね」
ぎりぎり聞こえるくらいの声量で、佐助の声がした。どうやら虚の入り口の近くに立っているらしい。
「しばらくの間、俺は明智を引き付ける。ここはそう簡単には見つからないから安心してね。君を迎えにくるまでは、ここで待ってて」
「……うん」
「じゃ、俺様はそろそろ行くね。……あと」
やっぱり気になるんだけどさ、と前置きしてから佐助は口を開いた。
「自分で気付いてる? さっきから名前ちゃん、『大丈夫』とか『平気』しか言ってないよ」
そう言われて、どきりとした。
「……そんなこと」
「俺様の勘だと、そんな時に限って危険な状態になってるんだけどさ」
「大丈……気にしないで」
「ほら、また」
顔を見なくても分かる。佐助は今、少し不機嫌そうな表情をしているはずだ。
「……無理されるとこっちが困るし、しんどいなら早めに言ってね」
「うん。……ごめん」
「別に謝る必要なんてないんだけどさ」
苦笑する佐助に、胸の中で苦いものが広がる気がした。
自分の無力さで、誰かに苦労をかけている。もし自分に戦えるだけの力があったのなら、こうはならなかったはずだ。
(役立たず)
こんなの、目も当てられない。
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