境征参加 | ナノ



「すっごー……」


城下町は賑わっていた。
昼間だからだろうか、人通りもかなり多い。名前はまるで映画村に着たかのような気分になった。

しかしここは本物。皆が毎日を精一杯生きている。なんともいえない臨場感に包まれた。


「名前殿、早く!」

「あ、はい今行きます」


朱色の着流しに茶色の羽織を着た幸村の顔は輝かんばかりである。見ていて眩しいほどだ。


「人通りが多いゆえ、某からはぐれなさいますな」

「き、気をつけます」


昼下がりが一番活気があるのか。まるで現代の市街地の中心部みたいな混雑さだ。

しかし道を歩けば人は勝手に避け、女性たちは黄色い声を上げている。よく顔が知られているらしい。
幸村のおかげで道が少し割れて、通りやすくなっている。


「――まずは、ここでござる」

「お茶屋さん、ですか」


渋い外観だ。これぞ茶屋、という感じである。

ぼけっと外観を見ていた名前を置いて、幸村は先に中に入った。

店内に入ると、彼は声を張り上げた。


「女将、俺だ! いつものを頼む」

「あら真田様。お久しぶりで。少々お待ち下さいな」


さっさと注文を済ませてしまった幸村が外に出てくると、名前は大事なことを思い出した。


「あ、真田さん。私お金持ってないので結構です」

「心配召されるな。某が持つゆえ」


幸村はにこりと笑って巾着を取り出した。中からは小銭の音が聞こえてくる。


「え、何か悪いな……」

「さぁ座りましょうぞ!」


幸村は満面の笑みで名前の袖を引っ張り、外においてある赤い座布団が置かれた長椅子に座らせる。そして間もなく女将が現れた。

手には大皿があり、そこには串に刺さった団子が三十本以上は載っていた。

(な、何だこの量!)


「この店の団子は美味いと評判でござる。名前殿、是非賞味あれ」

「あれまぁ真田様、褒めたって何も出やしませんよ」

「本当のことゆえ、褒めるも何もない」

「ま! じゃあごゆっくり。直ぐにお茶をもって参りますので、少々お待ちを」


幸村の言葉に機嫌の良くなった女将は鼻歌を歌いながら帰っていった。

名前は眼前の団子の山に唖然としている。

そんな彼女を見て、幸村は心配そうに顔色をうかがった。


「どうなされた、名前殿。……もしや、団子はお嫌いか?」

「いえ、そんなことはないんですけど……すごい量だなぁと思って」

「そ、そうでござるか? でも二人ならすぐ食べ切れまする!」


どこか奇妙な幸村は団子を一本とると口に運んだ。

もきゅもきゅと咀嚼していると、段々その顔が緩んでいくのが分かった。

(……ははあ。さては)


「真田さんって甘いもの好きなんですね」

「モガフ!?」

「さ、真田さん!?」

「む、むぐぐぐぐ……」

「ちょ、女将さぁぁんお茶ぁぁああ!」


気を利かせた女将が冷茶をもって来てくれたお陰で幸村は火傷することもなく、つまった団子をお茶で流し込んだ。


「はぁっはぁ……、し、死ぬかと」

「大丈夫ですか? ゆっくり食べてくださいね」

「う、うむ」


苦しさで顔を真っ赤にしている幸村は、しばらくの間黙ってもきゅもきゅと団子を食べていたが、やがて意を決したように口を開いた。


「名前殿は、お、男が……甘味が好きなのはどう思われる?」

「……親しみやすい、と思いますよ」

「!?」


ありのままを言うとものすごいスピードで幸村が彼女に振りむいた。


「まことでござるか!? し、して、どうしてそのように思われるのだ」

「え、だって、私も好きですし。甘いもの。一人で食べるなんて寂しいじゃないですか」


一緒に食べていて「俺甘いもの嫌いなんだよね」なんて言われては普通に甘いもの好きなこちらにとっては興ざめだし、寂しい。

だから美味しいと言い合えると親しみが湧く。


「美味しいものを美味しいと言い合えるのは、とても良いことだと思います」

「そうでござるか……!!」


幸村は感動したようにくぅーっと団子の櫛を握り締め、その顔に満面の笑みを浮かべた。


「そう言ってもらえると食も進むものでござる!」

「あ、あははは」

(進みすぎのような……)


そう言っている間に団子は次々と幸村の腹の中へ納まっていく。
先ほど目一杯ご飯を食べたというのに彼のお腹はどうなっているのだ。異次元ポケットと化しているのだろうか。

結局名前は3本食べただけで終了し、残りの二十数本は幸村が請負った、というより勝手に平らげた。

少し膨らんだお腹をぽんぽんと撫でながら、幸村は満足そうな顔をして茶を啜った。


「ふうー、満足でござるぅー」

「そりゃあれだけ食べたら満足しますよー」

「ここの団子は何本食べても美味いのだ! ……む」

「? どうしました、真田さん」


不意に言葉を切った幸村は、眉をしかめた。

もしかしたらお腹が痛いのだろうか。名前は不安になった。


「だ、大丈夫ですか?」

「しょ……」

「しょ?」

「醤油煎餅が、食べたい……!」

「ヒィィイ!?」

「善は急げでござる名前殿! いざ醤油煎餅を!」

「何なのこの人ォォ!」



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