信玄の部屋で昼食をとることになり、再び部屋に向かうと、すでに朱色の着流しに着替えた幸村がいた。
名前の姿を認めるとにっこりと笑いかけてくる。彼女も思わず笑い返した。
今朝より大分打ち解けたような気がする。うれしいことだ。
相変わらず和やかな食事中に、ふと幸村は信玄に尋ねた。
「お館様。その……昼からしばしお暇を頂いても宜しゅうござりますか」
「……城下町へ、か?」
また顔を赤くした幸村に、信玄は呵々と笑った。
「ようし、行って参れ」
「ありがとうございまする!」
「名前」
「はい?」
それまで焼き魚の身を解すのに夢中だった名前は顔を上げた。
「お主も行くといい」
「……へ?」
全く話を聞いていなかったため、突拍子も無い発言に名前の目が見開かれる。
「えと、すみません。何処へ……?」
「城下町だ」
「城下、町……」
「ここに来て日も浅い。城下の様子を知るのも良かろう」
「では名前殿、某がご案内いたす!!」
「はぁ……」
乗り気な幸村に押されて、状況がよくつかめないままだったが、とりあえず名前は頷いたのだった。
prev next
back