境征参加 | ナノ
現在、名前はついさっき自分が発した言葉に後悔しはじめていた。
(腰イテェエエエ!)
手に握っている鍬を振り上げるたび、ミシ、という嫌な音が腰の辺りから響いてくる。
重力に従って振り下ろし地面に突き立てると横から鋭い声が飛んできた。
「振りが甘いぞ##NAME1##!」
「ひぇぇすんません!」
白い手ぬぐい、小袖という農民ルックに着替えた小十郎は、汗を陽光にきらりと反射させながら隣の列の土を耕していた。
名前に与えられた仕事。
それは、種蒔き。小十郎曰く、夏に備えて新しい野菜を育てたいとのことだ。
(あ、種蒔きなら出来るかも)
そう思い、紐で袴の裾をたくし上げたりとやる気まんまんだったのだが、種を蒔くにはまず土を耕さなければならない。
結構な広さの土地なので、小十郎一人に耕す役を押し付けるのも忍びないので、彼女は半分引き受けることにしたのだ。
だが名前が思っていた以上に農業は厳しかった。
まず第一に鍬が重い。
この時代の技術では軽量化などできるわけがなく、長い木の棒の先に重量感たっぷりの鉄の塊、という筋トレの道具みたいな代物を振り回すことになった。
そんな鍬を振り上げ、地面に突き立てて下層の土を掘り返す。
単純な作業だが、その単純さが辛い。
息が上がり、腰も痛いので地面に立てた鍬に寄りかかっていると、最初は並んで耕していたのにもう列の最後まで行ってしまった小十郎がこちらに寄ってきた。
「大丈夫か?」
「ま、まあなんとか」
「無理はすんな、後は俺がするから休んどけ」
気遣わしそうな表情の小十郎に、名前は首を横に振った。
「やると言ったからには、やり通します……!」
腰はかなり前に限界を迎え悲鳴を上げているのだが、ここで止めては何の意味もない。
小十郎は軽い溜息を吐くと、お前も変な奴だなと困ったように笑った。
「だが無理だけはすんな。一応お前は女なんだからな」
わしわしと名前の頭を撫で、「種を取ってくる」と言って背を向けて歩き出した。
撫でられた頭を押さえながら、人知れず彼女は笑った。
「これは、頑張らなきゃなぁ」
よし、と一人で気合を入れ、再び鍬を振り上げた。
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