境征参加 | ナノ
という訳で畑にやってきた二人であった。
「うわー、結構広いですね」
例えるなら学校の25メートルプールくらいだろうか。石で周りを囲んでおり、囲いの中は多種多様な野菜が生えていた。
今は夏初めなので茄子、きゅうりなどがちらほら見える。
「何だお前、畑を見るのは初めてか?」
「いや、初めてではないんですが、あまり近くで見たことがなくて……」
「なら見て来い。上手そうだぞ」
彼の言うとおりに近寄って実の出来具合を見てみると驚いた。
茄子は艶々として色が濃く張りがあり、きゅうりは強い緑色をしており、突起が目立つものが多かった。みな美味しそうに育っている。
(このきゅうり食いてー!)
某アニメ映画の名作を脳内再生しながら嬉々とした顔で腰を屈める。
美味しそうな野菜たちだが、たまに虫に食われたのか丸い穴が開いて腐りかけているものもあった。
仕方ないことなのだが、小十郎はそれを見て顔を顰めた。
「ああ、また今年もやられちまってる……」
「毎年こうなんですか?」
「ああ、この時期は特にな」
はぁ、と溜息を吐くその姿はもはや武人には見えなかった。
野菜職人・片倉小十郎は気を取り直して、鍬を持ちながら名前を見た。
「政宗様はああ言っていたが、嫌なら無理に手伝わなくていいんだぞ?」
「……えっと、」
畑仕事を手伝った、という経験はあまり名前にはない。
田舎に帰ったときに、収穫などの手伝いをすることはあったのだが、こうも本格的な農業をしたことはない。
「あまり畑仕事をしたことがないので、手伝うと片倉さんにご迷惑をかけるかもしれません。
でも、やる気はあります!」
両手の拳を握りながら熱弁した名前だったが、すぐに自信はありませんけどね、と苦笑いをした。
そんな彼女に小十郎は、目を細めてふっと穏やかに笑った。
それをばっちり見てしまった名前の胸が、どくんと一つ大きく鳴った。
(何今の笑顔)
いつもの厳しい顔とは違い、温かく柔らかい表情。
反則すぎる。
「ん、どうかしたか?」
「あ、いえ……」
貴方の笑顔にときめいていました。
なんて言えると思うか。
(あー、しかしいいもん見た)
心の中で小十郎に手を叩いて拝んだ名前だった。
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