境征参加 | ナノ
「……おい、どうした」
壁がしゃべった。
いや、違う。この声は。
「片倉さん!」
小十郎の胸の辺りに埋まっていた名前はぷは、と顔を上げると、奇妙なものを見るような目をした小十郎と目が合った。
しかし気にしなかった、もう彼にこの目で見られることに慣れている。
「……何してんだ?」
「え、えへへちょっと逃げようと……」
小十郎は曖昧に笑っている名前に何か言いたそうだったが、何も言わずに彼女の腕を引っ張ってちゃんと立たせてやった。
小十郎が現れると政宗は構えていた筆を文机に置き、大きく伸びをして名前を指差した。
「おい小十郎。そいつ暇らしいから、お前の畑に連れてってやったらどうだ」
「……へ? 畑?」
予想外な言葉に名前は目を見開いた。
お前の、ということは小十郎の私有なのだろうか。
そんな疑問が顔に出ていたのか、小十郎を見上げてみると苦笑いをしていた。
「俺は野菜作りが趣味でな、城の近くに畑を頂いているんだ」
「へぇ、そうなんですか」
「結構本格的だぞ。ちゃんと食える」
意外だ、と言いそうになったが、何処か楽しそうに話す小十郎を見て名前は何も言わずに微笑んだ。
政宗はこちらに背中を向けたまま、後ろ手を振る。
「という訳だ、小十郎。後は宜しく頼む」
「分かりました」
「何なら畑仕事でもやらせたらいい」
「客人にそのようなことは……」
「暇なんだろ、名前?」
ちらり、と彼女に振り返る政宗の顔はいやに楽しそうだった。
「それともここに残って俺の暇つぶし相手になるか?」
「片倉さん! 何でも申し付けて下さい! さ、行きましょう!」
「あ、ああ……」
政宗が言い終わる前に勢いよくバッと小十郎に振り向いた##NAME1##は、彼の背中を押すように部屋から退出した。
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