境征参加 | ナノ




「散歩ォ? だめに決まってんだろ」


一応、城主である政宗に許可をもらうために、名前は彼の部屋に来ていた。

彼は現在執務の真っ最中らしく、文机を前に行儀悪く座り、くるくると筆を指で弄んでいた。

傍らには丸められた和紙がいくつも転がっていることからみて、作業の進み具合は良好ではないようである。

そのせいだろうか、苛々としている政宗は剣呑なオーラを発しながら後ろ手を振った。


「分かったら部屋帰って寝とけ」

「酷い……! 良いじゃないですか散歩くらい」

「だめだ」

「何で」

「俺が部屋にいるのにお前だけ外に出るなんて卑怯だ」

「自業自得じゃないですか!」


少し前、政宗と名前はお忍びで城下町に出かけたことがある。そのお陰で帰った後小十郎にねちねち叱られた挙げ句、溜まった執務をしろと政宗は連日自室に閉じ込められているのだ。

名前は半ば無理矢理連れて行かれたようなものだったので、小十郎も分かっていたのか彼女には特にお咎めはなかった。

政宗はぶつぶつと尚も文句を垂れる。


「贔屓だ……」

「私は被害者ですよ」

「共犯者だろ」


政宗はちらりと窓の外に広がる青空を見ると、恨めしそうに毒づいた。


「あーちくしょう天気良いな。今すぐ曇らねーかな」

「何てこと言うんですか」


名前はじと目で政宗を軽く睨んだ。


「暇すぎて死にそうです」

「……ならここにいろ」

「へ」

「仕方ねぇ、構ってやる」


にやり。猛禽類のように鋭い目は楽しそうにつり上がった。

その瞬間、背筋にひやりとしたものが流れたような気がした。


「い、いいです、いいですから、伊達さんはお仕事頑張って下さい」

「つれねぇこと言うなよ、なぁ」


何して遊ぼうか。

片手に墨がついた筆を構えて何を言ってるんだろう。


(この目は「私と遊ぼう」という目じゃない、「私で遊ぶ」目だ……!)


ヒィ、と小さな悲鳴をあげて慌てて立ち上がり部屋から逃げようとしたら、柔らかい壁にぶつかった。



 
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