境征参加 | ナノ


鍛錬が終ったのは昼を少し過ぎた頃だった。

幸村は爽やかそうな顔をしているが、相手をした兵たちが道場中に溢れてまさに死屍累々である。

しかしそこに、治療をしにきた女中さんたちの姿が現れると、彼らは瞬く間に元気を取り戻した。

現金な人らだ、と名前は内心苦笑した。
治療をしにきている女中さんたちもまんざらでもない顔をしている。


「名前殿!」


と、思案にふけっていた名前のもとに幸村が駆け寄る。その顔は実に生き生きとしている。彼は疲れというものを知らないのだろうか。


「お疲れ様です、真田さん。すごかったですね!」

「そんなことございませぬ! お館様はもっと凄いでござる!」

「あー……確かにすごそうです」


凄すぎてもはや想像できない。
だって部下の彼がこの調子なのだ。上司は一体どうなっているのだろう。

幸村は不意に唇を軽く尖らせた。


「やはり名前殿も参加なさればよろしかったのに……」

「み、見ているだけで十分ですって」


みすみす命を投げ出す覚悟はない。
名前は話をそらそうと、話題を振った。


「それにしても真田さん、すごい持久力ですよね。あれからずっとやってたじゃありませんか」

「戦はもっと長丁場でござるからな」

「おお、なるほど」


だがその時、ぎゅるるるるぅ! と豪快な腹の音が響いた。

お互い無言のままだったが、こらえきれず名前がふき出した。


「あは……す、すごい音……」

「名前の最初の一文字、名前殿ぉ……!」

「すみません、でも、すご……」


中々笑いの収まらない名前に幸村は真っ赤な顔を隠すように手で覆った。

その仕草が非常に可愛らしく、更に笑えてしまった。


「はー。すみません、大笑いしてしまって」

「……は、腹の音は某にはどうしようもないことでござって、それにもう朝餉から大分経ったのであって、」

「分かってます。じゃ、ご飯行きましょうか」

「う、うむ」


まだ顔の赤い幸村を連れて、名前は母屋へと戻った。



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