境征参加 | ナノ
準備を整えたところで、政宗に連れられ、名前は城の中を出て厩に向かった。
その途中数人の女中や小性と出会ったが、彼らと遭遇すると政宗はすかさず駆け寄り、何事かを耳打ちして彼らがそれに頷くと満足そうに先へと進んだ。
嫌な予感がひしひしと感じられたのだが、名前がその事を話題の端に乗せた途端、政宗はそれを逸らしにかかる。
危ない、という気配を本能で感じた。
そしてその瞬間脳裏に陽気な大男の顔が浮かぶ。
彼に連れられて上田城下町から加賀まで行ったのは、まつや利家らとの出会いがあったとはいえ、全てが良い思い出とは言えない。
それが今繰り返られようとしているのではないか。
「あ、あの伊達さ」
「さー着いたぞー!」
不自然なくらいのタイミングで言葉を被せてきた政宗は、少し先に見える厩に向かって早歩きを始めた。
はぐらかされた、と分かった名前は意を決して戻ろうとコッソリと背中を向けて歩き出したが、少し進んだと思ったら猛然とした足音が近付いてきて襟首を掴まれてしまった。
「ぐぼっ」
「なぁにしてんだテメェ」
行くっつったよなぁ?
上を仰いだら、怖い笑顔が彼女を見下ろしていた。
振り切ろうとしても力では到底敵わないし、彼の足の早さとしつこさは以前検証済みである。
最早これまで。名前は力尽きた。
逃がさないようにと政宗は襟首を掴んだまま彼女を引っ張っていく。
(これ、絶対二の舞だよなぁ……)
引き摺られるように後ろ向きでよたよた歩く名前は心の中で呟いて嘆息した。
今回は違う国に連れて行かれませんように。
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