境征参加 | ナノ
「月に一度、城下町で朝に開かれる市でな、それが丁度今日なんだよ」
「へぇー」
「野菜やら魚介類なんかが多いが、舶来モンの店もある」
「へぇー」
「結構bigな規模なんだぜ」
「へぇー、美味しそうですねー」
「テメェちゃんと聞きやがれ」
「うげっ」
うつらうつらしながら適当かつ投げやりに相槌を打っていたら政宗に背中を踏まれた。
不本意だが一気に眠気がなくなった名前は、仕方なさそうに起き上がり、敷き布団の上に座った。踏まれた腰が痛むのか手を回して擦っている。
「寝てる女の子の背中を踏むなんて……アイタタ」
「うるせぇ。適当に相槌打つテメェが悪い」
話が逸れた、と政宗は苛立たしげに舌打ちをする。
どうやら急いでいるらしい。
「……その朝市と、私を起こす事に何の関係が?」
「何って、あんたを連れて行ってやろうと思ってな」
「……今からですか?」
「だからこうやってわざわざ俺自ら出向いて起こしてやったんだろうが」
ありがたいと思え、と不遜に笑う政宗は突然立ち上がると、名前の腕を掴んで彼女を無理矢理立たせた。
「ちなみに、返事はハイしか受付ねぇ」
「うっ」
今にも断ろうとしていた名前は先手を打たれてたじろいだ。
そのまま部屋を出ようと政宗が歩き出したが、その時ものすごく大事なことに気付いた名前が慌てて制止をかけた。
「ちょ、待って、待って下さい!」
「Ah? ハイしか無理っつったよな?」
「……こんな格好で連れ出すつもりですか」
今の名前の格好は、どう見ても外に出られるようなものではなかった。
就寝用の薄手の浴衣は寝乱れてヘロヘロしているし深い皺まである。それに髪も風に揉まれたようにくしゃくしゃになっている。
「Ahー……」
政宗は彼女を頭から爪先までジロジロと見て、親指をグッと突出した。
「ま、大丈夫だろ!」
「絶対大丈夫じゃないですよ!」
思わずツッコんだ名前は、彼の手を振り払うと部屋に戻り襖に手を掛ける。
「準備するので待ってて下さい」
「ったく仕方ねぇな、1分待つ」
「伊達さんは女を何だと思ってるんですか」
彼女は部屋に戻ると髪にくしを通し、奥の襖でまだ寝ている清を起こさないように静かに着替えを身仕度を整えてから、再び襖を開いた。
政宗はキョロキョロと忙しなく周囲を見回していて、名前がふすまの向こうから現れるとあからさまに安心した。
「おせぇんだよ」
「精一杯です」
未だ一人で袴を着る事に慣れていないため、袷の部分がヘロッとしてしまっている。
もぞもぞと服をいじる名前に政宗は小さく笑うと、手を伸ばして服を整えてやった。
「ったく、だらしねぇな」
面倒臭そうな口調とは裏腹に、何処か穏やかな表情をしている。
申し訳なさと恥ずかしさからその手を押し戻そうとした名前だが、その柔らかな表情に見入ってしまい機を脱した。
「アンタ……ちょいと痩せた方がいいぜ」
(ほらね言うと思った!)
何故この手を振り払わなかったんだ自分。
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