境征参加 | ナノ




先ほどの騒動から、陣の内部は非常に慌しくなった。
政宗は結局、信玄らと行動を共にするようで、信玄から少し離れた距離に腰を落ち着かせている。

小十郎は政宗の傍に静かに立っているのに対して、幸村はうろうろと歩き回ったりと非常に落ち着かない。それも仕方ない、と名前は思った。

何せ、正体不明の軍隊が今か今かと攻めてきているのである。もともと静かな気性でもない幸村は尚更落ち着かないのであろう。

それを見るに見かねた名前は、幸村にこっそり話し掛けた。


「幸村、ちょっと」

「!」


名前の声に反応した幸村は、すぐさま彼女の方へ駆け寄ってきた。
赤の戦装束に身を包み、その両手には長い槍が一本ずつ握られている。

その刃物のきらめきに身を引いた名前だったが、幸村はそれに気付いたのか気付いていないのか、地面に勢いよく槍を突き刺すと、おもむろに名前の両手をとった。


「名前殿! ご安心めされよ!」

「はぁ?」

「慣れぬ戦場、何かとご不安があるでござろう。だがしかし! この真田源二郎幸村が! 見事守ってみせまする!」

「え? あ、はは……そうですか」


何を言い出すのかと思えば、顔を真っ赤にして幸村はそんなことを言った。いや、叫んだ。

周囲から聞こえるくすくす笑いが耳に届いて、名前はものすごくいたたまれなくなってしまった。

当の本人は未だ顔を真っ赤にして握りつぶさんばかりの握力で彼女の両手を握っている。


「あー。幸村。ありがとね。頼りにしてる。痛いけど」

「!! 某、身を粉にしてお守りする所存!」

「いや、粉にはしなくていいんじゃないかなアイタタタ」


こっそり話しかけた意味が全くなくなってしまったが、幸村の言葉で渦巻いていた不安感が少しだけぬぐわれたような気がした。



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