境征参加 | ナノ



用事はすんだ、とのことで部屋を出ることを許された名前は、とりあえず部屋に戻ることにした。

お腹がいっぱいで働き出した頭はもう睡眠を欲していないようだ。

何をしようかな、と考えながら庭に面している廊下を歩いていると、彼女はふと遠くの方に道場らしきものを発見した。

そこから掛け声とともに激しい物音がする。耳を済ませてみると、年若い声がするような気がする。幸村だろうか。

そういえば彼はこれから鍛錬すると言っていた事を思い出した。


「……ちょっくら行ってみるか」


興味の湧いた名前は、縁側の石の上に置いてあった草履を拝借した。
初めての感覚に歩きにくいと思いながらも、ようやく道場の前に辿り着いた。

そこは、男で溢れていた。


「うわぁ……」


道場の周囲は何処もかしこも道着を着た男たちで一杯だった。
加えて、皆一様にボロボロである。所々服が焦げているものもいた。何故だろう。

彼らは見知らぬ人間である名前が現れたことに驚いたが、咎めはしなかった。よほど疲れているのだろう。

地面に倒れている彼らを踏んでしまわないように、道場の扉まで歩いていく。

こっそり中を覗いてみた。
地獄が広がっていた。


「うぉおおおりゃああああ!」

「「「ぎゃぁぁあああああ!!」」」



耳を劈くような掛け声とともに、男が3人、宙を舞った。

ありえないくらいの滞空時間を経て彼らは無残に床へと落ちていった。

唖然とその光景を見ていた名前だったが、真ん中にいる幸村をみて、更に唖然となった。

燃えている。

比喩ではない。そのまま。幸村の全身が炎で包まれていた。しかし本人に熱がっている様子はない。

名前はあたふたと水を探した。なんと言うことだ。このままでは幸村が焼死してしまう。


「さ、真田幸村が燃え、燃えてる! み、水を。誰か水を……!」

「……名前殿?」

「ぎゃぁああ!」

「!?」


水を探していると、不意に背後から当の幸村が声を掛けてきた。

ものすごく驚いた名前は大声で叫んだ後、ハッと我に返って近くにあったバケツを掴んだ。


「さ、真田さん! だ、大丈夫ですか!? 落ち着いてください今水を探してきますからそこを動かないで下さい! 動くと死にます!」

「死ぬ!? 落ち着くのは名前殿でござる! ど、どうなされた?」

「燃えてるのに何でそんなに落ち着いているんですか貴方は!」

「え? ――ああ。これのことでござるか」


名前が慌てふためく理由を悟った幸村は微笑すると、手を振って否定した。


「大丈夫でござるよ、名前殿。これは某にとっては熱くないのでござる」

「へ? 熱くない?」

「見ていてくだされ」


そういうと幸村は気を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸をした。すると炎はたちまち消えてしまった。


「ほら、消えてしまったでござる」

「……さ、ささ真田さんって、パイロキネシスだったんですか!?」

「ぱいろ……? 何でござるか、それは」

「発火能力者のことです。真田幸村は超能力者? うーん歴史っていったい……」


ぶつぶつと一人呟く名前に、怪訝そうな幸村は首をかしげた。


「むぅ……、よく、意味が分かりませぬ。これは某の闘気の炎でござる!」

「闘気?」


首を傾げる名前に、幸村は目をキラキラさせて説明してくれた。


「そうでござる。某らは鍛練を詰んで闘気を磨いているのでござる!」

「そ、そうなんですね」


いまいち分からない説明だった。今度信玄様に聞いてみよう、と名前はこっそりと考えた。



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