境征参加 | ナノ
土ぼこりの中でも輝きを失うことがない金色の髪を持つ人物は、ほう、と息をついた。
「……生きているか」
少し低いが、女性の声で間違いない。
声音には冷たさが多分にあるが、その中から安堵の響きも感じられる。
うっすらとしか開けていなかったまぶたを、名前はこじ開ける。
そこには、金色の髪を物憂げに揺らしている美しい女性の顔が合った。
(……え、え、え?)
その顔は、彼女が今まで目にしたことがないほどに美しかった。
陶器のような白い肌に、彫刻家が何ヶ月も苦心して整えたような桃色の唇。
瞬きをすれば何か尊いものが零れ落ちそうなほど長いまつげに縁取られた、黒の瞳。
少し釣り目がちだが、そこが彼女の顔を引き締めて、特徴たらしめているのだろう。
名前は思わず、ここが戦場で、相手が敵か味方かも知れぬ相手だということを忘れて、息を呑みそうになった。
相手の女性は、名前が穴が開くほど見つめてくることに意を解さず、彼女の頬を軽く叩いた。
「意識はあるか。おい、私の問いに反応しろ」
「……ぇ、うぇ?」
軽い衝撃に我に返った名前は、ぱちぱちと瞬きをして女性をもう一度見た。
そして、見えていなかったものに気付く。
(こここの人……服、服が!)
名前は、彼女が着ている服を見て我が目を疑った。
(ええええええええええええ)
黒のつや消し素材のタイツが、身体の曲線をあらわにし、胸から腹、背から腰にかけて大きく開いていた
金髪の美女は顔のみならずスタイルも抜群によく、女性の象徴のふくらみも非常に豊かである。こちらが恥ずかしくなるほどに。
そんな名前のぎょっとした視線に気付くこともなく、金髪の女はその細腕からは想像も出来ないほどの腕力を発揮し、軽々と名前を抱き上げた。
「うえ!? ちょ、ちょっと!」
緊張のあまり体が弛緩して一切身動きも抵抗も出来ない名前は、なすがままにされていた。
金髪の女性は、名前を肩に背負うと、その場から立ち去ろうとした。
しかし。
「待ちな」
その声に、女性も、そして名前も、反応を見せた。
「その子はうちのお客さんだからさ、連れて行かれちゃ困るんだけど?」
このひょうひょうとしていて、うちに暗く秘めたものを持つような、声は。
どこかで聞いたことはなかったか。
聞きたいと切望していたものではなかったか。
「……さ、すけ」
名前が呟いた小さな声は、金髪の女性はおろか、佐助の耳には届かなかった。
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