境征参加 | ナノ




つや消しを施された黒の装束は女性的な曲線をあらわにしている。そして胸から腹、背から腰にかけて大きく開いていた。

美しい造りの顔立ちと相まって人の目を惹く容貌だが、今は彼女の全身から殺気が溢れかえっていた。

そのことに思わず佐助は苦笑してしまう。


「そんなに殺気出してちゃだめでしょー」

「お前に言われる筋合いはない!」

「はいはい」


にべもなく忠告を撥ね付けるかすがをいなすように、また佐助は笑う。

それが気に障ったのか、かすがはクナイを握り直し自分の前に構え、その目に殺気を滲ませた。


「……武田の生臭坊主の前に、貴様を片付けてやる」

「はは、やっぱ大将狙いか」


相変わらずこりないねぇと頸を竦めた佐助は、それまでまとっていたふざけた雰囲気を一変させて、まるで刃物のように鋭く目を細めた。


「軍神は大将とやりあいたいって言ってんだろ? 水差すのはよくねぇよな」

「くっ……」


正論を唱える佐助に、かずがは僅かに身じろいだ。

かすがは以前は佐助の仲間だったが、軍神・上杉謙信暗殺の任務中、謙信側に寝返ったくのいちである。

名高い軍神の美貌に惑わされた、などと憶測が飛び交っているが、彼女が謙信のことを慕い、敬っているのは確かだ。

謙信の目的を邪魔するこの行為も、かすがの中で様々な葛藤が生まれた結果実行されるに至ったのだろう。

と、その時。


「――! ――!」


ぴりぴりとした殺気を発していた2人は、遠くの方から聞こえて来る声にピクリと反応した。

佐助には聞きなれた声。

彼は思わず舌打ちを付いてしまいそうになったが、それを表情に出さず、不敵に笑ってみせた。


「どうする? 二対一はちょっときついんじゃない?」


かずがは眉を顰め唇をかんだ。

佐助一人であれば、正面から戦いを挑んで勝てはしないだろうが、負けることもない。
だがそこに声の主――あの甲斐の若き虎が加われば。

どうする。汗腺すら調節できるはずの自分の額に冷や汗が滲むのが分かった。

ここで死ぬわけにはいかない。


「……貴様の主に感謝をしておくんだな!」


言い放つと同時に彼女は指笛を鳴らす。
すると、近場に隠れていたのだろう、ものすごい速度で白い巨鳥が現れた。

かすがは佐助に数本クナイを放ち、動きを牽制すると巨鳥の足を掴んだ。

もとより彼女を追う気がなかった佐助は襲い掛かるクナイを弾くと、もう小さくなったかすがの後姿を見て、小さく手を振った。



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