境征参加 | ナノ


下着の代わりに胸に巻かれたさらしが気持ち悪い。

きっちり固定されているのは申し分ないのだが、何分始めての感覚なので居心地が悪かった。

しかも結構きつめに巻いてもらったので苦しいし、元からそんなに目立たなかった胸囲のふくらみはいまや無いに等しかった。

そう。どこからどうみても、彼女は女顔の少年となっていた。


「お、お似合いです」

「……、ありがとう」


言い難そうな清の気持ちも分かる。内心ものすごく複雑なのだろう。名前の同じであった。

食事は信玄のところで食べるのだ、と清に教えられ、支度を整えた名前は清に連れられて廊下を歩いていた。

彼女の前を歩く清は、やはり所在なげにチラチラと名前を見ていた。


そうこうしている内に、信玄の私室の前に到着した。
どう声を掛けていいのか分からなくて突っ立っていると、中から信玄の声で入室を許可する声が掛けられた。


「失礼、します」


そろり、と障子を開けると、そこには信玄ともう一人、朱色の着流しを着た昨夜の茶髪男がいた。

ふと、先ほどの大声の主はこの男だろうかと思った。

何故か二人とも頬の辺りが赤く腫れていたし、何よりどうしてそうなったかが気になったのだが、聞くのはやめておいた。何か特別な事情があるのかもしれない。

名前はとりあえず信玄に挨拶をする。


「おはようございます」

「うむ。……えらく動きやすそうな服じゃの、名前」


信玄がいぶかしむのも分かる。
今の名前は何処からどう見ても少年である。

胸部など、断崖絶壁と言ってもいいくらい、ない。

清は物凄く居心地悪そうだ。助け舟を出してやる。


「わ、私、着物より袴派なんですよ」


信玄が微妙に顔を引き攣らせたのが分かった。しかし咳払いをして気を取り直す。


「……まぁ、お主が選んだのであればそれもまた良いじゃろう。
 清。膳を持って参れ」

「承りました」


信玄に命じられた清は部屋を退出した。

部屋に残ったのは名前と信玄に赤い男。

彼女は今まさに信玄に赤い男の名前を聞こうとしたが、彼のほうが幾分か早かった。

彼は名前の目を真っ直ぐに見て、自己紹介をする。


「某は真田源二朗幸村と申しまする! 以後お見知りおきを」

「え、あ、……私は名字名前といいます。よろしく、お願いします」



赤い男は真田幸村というのか。

彼女の脳の記憶がよみがえる。彼は直接歴史に関わってこないのであまり知識はないが、彼の父親が甲斐に使えていたことを思い出した。

それにしても、若い。自分と同じかそれ以下だろう。顔立ちは非常に整っており、芸能人顔負けという風だ。

その割りに、備えられた双眸の光は強い。

いくつも戦を乗り越えてきたのだろうか、とぼんやり思った。

幸村は自己紹介を終えると、不思議そうな顔で信玄に向き直った。


「お館様。その……某、客人は女子と聞いたのでございまするが」

「……」

(やっぱ見えないか。や、別にショックじゃないし、別に……)

がくり、と項垂れる名前。信玄は苦笑して、幸村に事実を教えてやる。
すると彼は顔を真っ赤にして頭を下げてきた。

気にしてませんよ、と弱く笑いかけると更に幸村は真っ赤になった。よく分からない男である。

(赤くなりたいのはこっちの方だ……)




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