境征参加 | ナノ
「それでは、お召し物のお着替えを致しましょう」
目を擦りながら残念そうな顔をしている名前を尻目に、清は手際よく布団を片付けると持ってきた着物を準備し始めた。
しかし、段々その顔色は蒼くなっていく。
心配になった名前は清の手元に顔を近づけた。
「どうかした?」
「も、申し訳御座いません!」
「?」
「着物が……」
泣きそうな顔で清が見せたのは、水色の袷に濃紺の袴だった。
「ただの着物、だよね? 何かおかしいの、コレ」
「……これは男物なのでございます」
「お、男物」
どうしたら男物が準備されたのかその経緯が知りたい名前だった。
「申し訳御座いません、今すぐ代えをお持ちいたします」
「あー……いいよ、それで」
「え? ですが名前様はその、……女子でございますよ、ね?」
(確認されちゃった……!)
顔が引きつるのをこらえて、控え目に笑った。
「うん、一応ね」
「なら男物ではおかしいじゃありませんか」
「でも、この時代の女の子が着る服って、動きにくそうだからなぁ……」
「?」
「あ、いや。こっちの話」
(そっか。清ちゃんたちにとっては当たり前だもんなぁ)
自分にとって着物なんて人生に二、三回着るか着ないかだ。
華道や茶道やってます、とかならまだしも、普通に生活していて着物に触れる機会は滅多にない。
浴衣なら縁日で幾度か着たことがあるが、歩くたび着崩れて大変になった覚えがある。
浴衣と着物は違うのであろうが、彼女は着物に苦手意識を持っていた。
でも袴なら。形状はズボンみたいなものだ。
「……あのね清ちゃん。私、袴がいい」
「そうなのですか……? いや、でも……」
「いいのいいの。じゃあ、着替え手伝ってくれる?」
「はぁ……」
不思議そうな清をどうにか言いくるめて、名前は服を脱いだ。
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