境征参加 | ナノ



「了解いたしました。後ろの奴等には私から伝えておきます」

「頼んだぜ」


小十郎は巧みに手綱を操ると、後ろのほうで何事かとざわついている騎馬隊たちに休憩する旨を伝えにいった。

それを見届けると、政宗は軽やかな動作で馬から下りた。
そのまますぐ側の茂みに向かう。

放置された名前は慌てて彼を呼び止めた。


「ちょ、何処行くんですか」

「すぐ戻る。大人しくしてねぇと落馬すんぜ」

「んな不吉なことを……!」

「じゃーな」


こちらを振り返りもせず、片手を上げて草むらの奥へと消えた。小十郎も馬を下り、それに急いで付いていく。

残された名前は口を押さえながら、戦々恐々とした面持ちでもう片方の手で鞍の一部を握り締めていた。

政宗が言い残した『落馬』という言葉が頭の中を駆け巡り恐怖心を沸き立たせる。

馬の扱いなど、名前は全くといっていいほど知らない。牧場体験などで馬に触ったことはあるが、実際に乗ったことは残念ながら現在以前の記憶にない。


(落馬して万が一死んだら伊達さんの枕元に毎晩立ってやる……!)


ポジティブだかネガティブだか分からない決意をしていると、小十郎の馬を操って清が側までやってきた。

名前は思わず目をむいて彼女を見つめる。


「き、清ちゃん、馬乗れるの!?」

「たしなむ程度ですが」


清は名前より少し小柄な少女だ。
自分より小さな女の子が馬に乗れているなんて、と彼女は自分が少し情けなくなった。


「実家で馬を飼っていましたので」

「へぇー。それでかぁ」

「名前様も今度習ってみては如何ですか? 何でも、乗せられるより騎手の方が酔わないそうですよ」

「え、ほんと!?」


(そういえば車の運転なんかもそうらしいもんね……)


こんなことなら広告の乗馬クラブにでも入っておけば良かったな、と一瞬後悔する名前だったが、それこそすぐ側に現物がいることを思い出した。


(そうだよ! 今すぐでも出来んじゃん)


興味を持った彼女は、おもむろに目の前にある手綱に手を伸ばした。

そしてそれが間違いだったことにすぐに気付いたのだった。



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