境征参加 | ナノ
奥州へと続く山道を、ものすごい速度で騎馬隊が駆けていた。
馬たちが去った後の道はまるで乱暴に耕されたように土が掘り返されている。
その騎馬隊の先頭を走る、一際美しい白毛の馬に乗っているのは、奥州の武将である伊達政宗だ。
荒々しい走りのため酷く揺れる馬上だというのに彼は優雅に腕を組んでいる。
その後ろ。政宗の腰あたりに、名前はしがみついていた。
髪は風に吹かれ、ライオンもかくやというほどにぼさぼさとなっている。
そして何より顔色が悪い。
何故か。
またしても酔っているからだ。
「死ぬ……いやむしろ死にたい……」
まるで呪詛のようにぶつぶつと低い声で呟く彼女に、馬の頸と彼女との間に座っている政宗はちらりと一瞥して大きな溜息を吐いた。
「後ろで縁起でもないこと呟いてんじゃねぇよ。気味悪いだろうが」
「こうやって呟いてたら楽になるような気がするんです……」
「俺まで気持ち悪くなりそうだ」
「はは、これで伊達さんも私の気持ちが分かりますね」
「知りたくねぇよンなもん」
「伊達さんはもう少し思いやりの心を持ったほうが良いです……」
「どういう意味だ」
「そのままの意味です、よ……」
吐き気がこみ上げてきたのか、名前は口を押さえて黙った。
無言になった彼女をいぶかしみ、後ろを振り返って口を押さえている名前を見て、政宗は突然手綱を引いた。
上体を逸らす馬を宥めすかしながらその場にとどまる。
後続の騎馬隊たちも慌てて政宗に倣い、手綱を引いて馬を止めた。
それまで清を乗せ、少し後ろで走っていた小十郎は自身の美しい青毛の馬を白毛に寄せた。
「如何なさいましたか政宗様」
「いや、そろそろ休憩を取ろうと思ってな。城まではもう少しだが……」
そこで言葉を切ると、政宗は親指で後ろの名前を指差した。
依然彼女は口を押さえたまま蹲っている。政宗たちが会話しているのには気付いていないようだ。
「こいつがdown寸前だ。……新調したばっかの羽織を汚されちゃかなわねぇ」
口ではそう言いながらも、政宗の左目は何処となく気遣うように彼女を見ている。
それに気付いた小十郎はフッと苦笑した。
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