境征参加 | ナノ



自分たちも戦の準備で大変だろうに、わざわざ城門まで信玄と幸村が見送りに出ていた。
佐助はそんな二人を見て疲れたような顔をしている。

いつも通りだ、と名前は何だか妙に安心してしまった。

信玄と幸村に挨拶をしようと政宗は馬から下りた。
それに小十郎と成実もついていく。

後に残された名前は馬の扱いなど勿論心得ておらず、いきなり放り出されてオロオロとしていたが、側まで佐助がやってきたので胸を撫で下ろした。

彼は馬の手綱を握りながら胴体に寄りかかるような体勢で名前を見上げた。

そしていつものように軽い笑みを浮かべる。


「伊達の旦那と相乗りだって? アハハ、ご愁傷様」

「見送りの言葉がそれかよ!」

「嘘嘘。でもほんとに可哀相だって思ってるよ」

「……伊達さんが?」

「おお、すごい。よく分かったね。何、君読心術でも会得してるの?」

「……今佐助が地味に痛い怪我をすればいいって思った」

「え、ひどっ。今の、戦に行く人に言う台詞じゃないぜ」

「最初の言葉も見送る人の台詞でもないかと思います!」


そんないつもの軽口を言い合った後、二人はどちらからでもなく笑い出した。

名前は空を仰ぎながら、満足したような風に呟く。


「あー、いつも通りだ」

「何が?」

「佐助とこうやって話してるってことが」


すると戦忍も空を仰いだ。上空に広がるのは蒼。

これから彼女が赴く土地も、自分が戦う場所も、こんな蒼い空は広がってるだろうか。


「……これからしばらく話すことすら難しくなるしね。余計にそう思うんじゃない?」

「そだね」

「ま、こんな風に空は一つに繋がってんだしさ。そんなに寂しがることもないって」

「……佐助、クサイよその台詞」

「……お、俺様もそう思ったとこ」


名前は空から視線を外すと、照れたように腕で顔を隠す佐助を見下ろした。


「あー柄にもないこと言っちゃった。はっずかしーなもう!」

「佐助」

「何?」

「……おっきい怪我、しないでね」


佐助は己の顔を覆っていた腕を外して馬上にいる名前を見上げた。

太陽光のせいで表情までは判然としないが、どうやら笑ってくれているらしい。

笑顔はいい。泣き顔よりずっと心が落ち着く。


「……ん。名前ちゃんこそ、迷惑かけちゃだめだよ」

「うん」

「伊達の旦那の背中に吐いたら怒られちゃうから、林の中でするんだよ」

「どうして酔うこと前提かな!」

「自分に聞いてみな。自ずと答えは出るよ必ず」

「何かもう腹立つわぁー」

「まぁまぁ。――そろそろ出発だね」


挨拶をし終えたのか、政宗とあとの二人がこちらにやってくる。それを見て佐助は馬から背を浮かせた。

そうして馬上の名前に、へらりと笑って手を振った。


「頑張ってね。俺様も頑張ってくるから」

「……ん」

「はいはい。んじゃ、いってらっしゃい」

「行ってきます」


笑顔を浮かべながら揺られていく名前を見送って、踵を返した佐助は苦笑していた。


(約束、増えちゃった。どうしてくれんだか)


一つは、己の主と結んだ主従の約束。

そしてもう一つが、先程半ば勝手に結ばされた約束。


(そんなの……守れるか分かんないのに)


それでも守ろうと思ってしまった己の酔狂さに、溜息が出そうだ。


(……ま、それなりに頑張りますよっと)


心中の掛け声と共に城の天守に飛び上がった。

無意識のうちにまた目で彼女の姿を負う。
今や遥か向こうに見える少女の背を捉えるとその旅路の無事を願った。




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