「どしたの?」
「……名前殿!」
「うおぉ」
なにやら閃いたらしい彼の呼びかけに驚いて名前の肩がびくっと震えた。
幸村は彼女に駆け寄ると、持っていた荷物を地面に下し、空いた両手で彼女の手を掴んだ。
そして、叫ぶ。
「この真田源二郎幸村、必ずや、必ずや勝利を手に入れてみせまするぅぅ!!」
「うごぁ……」
至近距離で大音声を聞いたため耳鳴りがしたが、幸村は気付いていないのか更に叫び続ける。
「それまではしばし、奥州にてお待ちくだされ! 某が必ずや迎えに行きまするゆえ!」
「わ、分かった。分かったから幸村、ありがとう……!」
遠のきそうな意識を辛うじて保っている名前は引き攣り笑いを浮かべた。
(こ、これでわざとじゃないんだから、手に負えない……)
幸村なりに、これから奥州に赴く自分のことを精一杯考えてくれているらしい。
不安を解消しようと慰めてくれているのだ。
(そう考えたらこの大声も我慢できそ……)
「うぉおお漲るぅぁあああ! お館さばぁぁああああぁ!!」
(……無理だ!)
視界が滲んできたのは気のせいだろうか。
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