境征参加 | ナノ
治療を終え、薬箱を元の場所に仕舞った幸村は庭先に降りた。
そうしておもむろにしゃがみ込み、茣蓙の上を片付け始める。急いで彼女も手伝おうとしたが、しかめっ面の幸村に片手で制されてしまった。
「また怪我をすると大変でござる」
「そ、そんなにドジじゃないよ」
「とにかく、これは没収でござるよ」
彼は素早く全てを風呂敷に包むと、取り付く島もなくがっちりと抱え込んでしまった。
名前の顔に落胆の色が浮かぶ。
「ああ、私の唯一の楽しみが……」
「名前殿はもう少し女子らしい趣味を見つけたほうが良いでござる!」
えらそうにふんぞり返る幸村を名前はじとーっとした目で睨んだ。
「余計なお世話だこのやろう」
「その口調も直した方が良い」
「オカンが二人……!?」
ヒィィ、と顔を蒼くしてうろたえる名前に小さく笑って、幸村は立ち上がった。
「某はこの包みを仕舞ってくるが、くれぐれも大人しくしていて下されよ」
「分かってるって」
オカンが二人は厳しいな……、とぶつぶつと呟きながら彼女は離れへと戻る。
その背中を、幸村は思わず引き止めてしまった。
「名前の最初の一文字、名前殿」
「ん?」
すぐに振り返ってくれる彼女に、言いたい事がまとまっていないのに声を掛けてしまったことを幸村は後悔した。
うんうんと唸っている幸村を怪訝そうに名前は見ていた。
放っておこうと一瞬考えたが、なにやらとても真剣な顔をしている。
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