境征参加 | ナノ
指先からは熱い温度と柔らかい舌の動き、そしてぴりぴりとする痛みが伝わってくる。
「――え? え!? えぇぇぇ!?」
しばらくしてようやく思考回路が正常に働いてきた名前は、みるみるうちに顔を赤くさせた。
恥ずかしさのあまりばたばたと暴れ始める。
「ちょ、何やってんの!? 何やってんの!?」
だが離れようともがいても、びくともしない。傷口を吸われる感覚に眩暈がする。
(ぎゃぁあああ! ぎゃぁああああああ!!)
心の中では思い切り叫んでいるのに、驚きのあまり声が出ない。
やがて幸村は銜えていた名前の指を口から出すと、地面に血の混ざったつばを吐いた。
それを見て名前は理解する。
(い、今の……錆抜き?)
錆びの混ざった血液を吸いだしてくれたのだろうか。
幸村は桶の中の水を捨て、新しく汲み上げると今度は優しい手つきで彼女の手を水につけた。
「これで大丈夫なのでござる」
「ははは、はは……」
口を使って血を吸い出すなんていう漫画のようなベタな展開を、まさか自分が体験するとは思っても見なかった。
「あ、ああありがと、ね」
不自然極まりない笑顔で礼を述べたが、まだ幸村は手を離してくれなかった。
「錆びの混ざった血は抜いたが、万が一ということもござる」
そう言って縁側に彼女を座らせると、離れの中に入って薬箱を取り出してきた。
ここで寝泊まりしているというのに、そんなものがあるとは知らなかった。
箱を開け、壺を取り出す。名前はその壺に見覚えがあった。
「あ、これ佐助が前使ってくれた奴」
「……首の傷、でござるか?」
「うん」
傷は三週間の間にもうほとんど塞がっていて、包帯も薬もいらない。ただ、そこには薄い痕が残っていた。
しかしそのことを彼女は全く気にしていなかった。
大して目に付かないし、他の場所にはもっと大きくて目立つ傷がある。
そんな痕に一瞬幸村の視線を感じたが、名前がどうしたのかを尋ねる前に彼は何も言わずに視線を外して治療に勤しんだ。
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