境征参加 | ナノ
「いっつ……!」
鋭い痛みが指先から脳まで駆け上がってくる。
思わず鋸を取り落としてしまった。
「いったぁぁ……。うげ、血ぃ出てる」
切ってしまった人差し指の腹からは絶え間なく血が溢れ出てくる。
思わず人差し指の根元を握る。暫く握っていたのだが血は止まらない。
小さな傷なら押さえると暫くしたら血は止まるので、傷口は結構深いな、と名前は眉間にしわを寄せた。
「あ、洗わなきゃ……」
先程竹の言った「錆びは怖い」という言葉を思い出して、慌てて井戸を探す。
しかし一向に見当たらない。女中を探そうと周囲を見回したら、視界の端に見慣れた赤が入った。
「名前殿、いかがなされた?」
「あ、幸村……」
視界の隅に写った赤は、幸村がいつも着ている着流しの色だった。
庭に面した廊下を歩いていた彼は、庭先で挙動不審な動きをしている名前を見て一瞬怪訝そうな表情をした。
だが血にまみれた彼女の指先を目にすると、血相を変えて草履も履かずに駆け寄ってきた。
「その手は!?」
必死そのものの幸村は、彼女の手を包み込むようにとった。
血にまみれている指を見て痛ましそうに表情を歪める。
「酷い……。何で切ったのでござるか?」
「あ、あそこの鋸」
そう言って落としたままの鋸をちらりと見ると、幸村も釣られてそれを見た。
そうして驚いたのか目をカッと見開く。
「これは……!」
そう呟くと、彼は名前の怪我をしていない方の手首を握り、庭先を猛然と走り出した。
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