境征参加 | ナノ
自室に戻ると完璧に荷造りされていて、清の姿は既になかった。きっとまた準備のために歩き回っているのだろう。
それなのに趣味のことをしようとしている自分がちょっと情けなくなった。
それでも竹が仕事を中断してまで用意してくれたので、少し自己嫌悪になりながらも庭先に茣蓙を引き、その上に座る。
風呂敷の包みを開き、必要なものを取り出していく。
槌やノミや鉋は必要ないので風呂敷の中に戻し、切りかけの板と鋸を出した。
板を両腿で挟んで固定して、印をつけたところを慎重に切っていく。
木屑が大量に発生して一瞬しまったと思ったが既に付着した後だったので、名前は諦めて作業を続けた。
また清に叱られてしまうことが決定した。
ぎいぎいと板を切っていると、彼女は突然ふっと微笑んだ。
(そういえば慶次と会ったのも、こんな風に鋸で板切ってる時だったよね)
木屑まみれの自分に頓着せず近寄ってきて、女の子扱いしてくれて。
そして、女の子の着物を着せてくれて化粧して城下に連れ出され、無理やり加賀まで連れて行かれその結果佐助に怒られて乗り物酔いした挙句、帰り道に政宗に会ってまた酔って吐いて。
(……あれ? 何でだろ、段々腹立ってきたぞ)
だめだ、とふるふると頭を振る。
この時代に来て初めて友達になってくれた彼の顔を思い出した。
(京かぁ……。いつか行きたいなー)
今は無理だが、暇になった時が来たら、手紙を書こう。今度はちゃんと佐助や信玄に許可をもらって。
何だかわくわくしてきた名前はふふ、と笑った。
だが、刃物を扱っているという危機感を忘れて鋸を動かしていたため、板から鋸がはみ出たことに気付かなかった。
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