境征参加 | ナノ




今頃彼女は洗濯物を干している頃だろうか。
邪魔になるとは重々承知であるが、何せ竹しか場所を知らないのだ。

物事を中途半端に終らせるのはあまり好きではない。


(えーっと、確かここら辺だった、ような……)


台所の近くに洗濯場があったはずだ。
台所の前を通り、洗濯場を覗く。中には見知らぬ女中しかいなかった。


「どうかなされましたか」


その内の一人が名前に気付き、にこやかに声を掛けてきた。
びっくりしてわたわたと慌てふためきながら、何とか女中に竹を探している、と言うと、「廊下を進んだ先の庭で洗濯物を干しております」と教えてもらった。
やはり仕事中のようだ。

親切な女中に礼を言って、廊下をまた進んでいく。

進んだ先の縁側から見える庭に、竹はいた。
大きな洗濯籠の中から洗った着物や下着類を干している。

少し言いづらそうにしながらも、名前は縁側から彼女に声を掛けた。


「あのー、竹さん」


すると竹は彼女に気付き、干していた洗濯物をそのままにして名前に駆け寄ってきた。


「どうかなされましたか、名前様」

「あのね、ほんっとうに申し訳ないんだけど……作りかけの本棚と工具、知らない?」


すると彼女はポン、と手を打って頷いた。


「ああ、あの板切れですね!」

「……うん、そう。それ」

「少々お待ち下さい」


そう言うと竹は前掛けを翻していずこかへ消えた。

残された名前はがっくりと肩を落とした。


「や、やっぱりただの板切れだよね……。組み立ててもいなかったもんね……」


仕方ない、仕方ない、と自分にそう言い聞かせていると、風呂敷を抱えた竹が戻ってきた。


「お待たせしました! ご要望のものです」


彼女は縁側に風呂敷を下ろすとその包みを解いた。
中には切り掛けの板数枚と、鋸と槌とノミや鉋など工具が入っていた。

その内の一つ、鋸を手に取り、茶色くなった刀身を指差して竹は怖い顔をする。


「このとおり、この鋸はかなり錆びておりますから、くれぐれもお取り扱いにご注意下さい。万が一これで怪我をしてしまったらすぐに水で洗い流すこと! そして近くの女中を呼びつけてください」

「了解です」

「本当に気をつけてくださいよー? 錆びは怖いんですからね!」


鋸片手に眉根を寄せてしかつめらしい顔をした竹の方が幾分か名前の恐怖心を刺激したのだが、大人しく頷いて何も言わずにおいた。

そうして受け取った風呂敷を両手に抱えて、重量のため若干ふら付きながらも彼女は自室へと戻っていった。



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