境征参加 | ナノ
「えと、清ちゃん? 私最初に『女物の着物は持って行かない』って言ったよね……?」
「だって……」
上目遣いで眉を寄せられてしまうと、名前はうっと言葉に詰まった。
佐助や幸村とは違って、清に強い物言いは出来ない。
「……元に戻してきて、ね?」
「えぇ……?」
「くっ……、と、とにかく持って行きませんからね!」
まるで何処かの迷彩忍のような口ぶりで言い切ると、不承不承といって風だが清は化粧箱と着物を片付け始めた。
それを見てほっと胸をなでおろした名前は、途中だった荷造りを適当に終らした。
そうして立ち上がり襖を開いて縁側に出て、大きく伸びをした。
朝から清と二人で部屋に篭って荷造りをしていたため、久しぶりに吸う外の空気がいつもより少し美味しく感じた。
「……あ、そうだ」
そうしていると、ある事を思い出した。
名前は振り返り、清に声を掛ける。
「ねぇ清ちゃん」
「何でしょうか」
「あのさ、前作ってた本棚あるでしょ?」
「本棚……? ああ、あの板切れ」
「……まぁ確かにまだ板の状態だったけどね!」
「それが何かいたしましたか?」
「(何か軽やかにスルーされた気が……)
今から続きしようかなって。何処に直した?」
「それなら女中の竹がよく存じております」
「ああ、竹さん。分かった、ありがとう!」
竹、とは清と同じ女中である。飯炊き、風呂焚き、掃除洗濯なんでもござれな万能女中だ。
話によると清の先輩らしい。
名前は清に礼を言うと廊下を歩き出した。
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