境征参加 | ナノ
七日後に戦が始まるということなので、伊達軍は当初三日滞在するつもりだったが、予定より早めに切り上げて帰るらしい。
なので名前もそれに合わせて移動の準備を始めた。
信玄が与えてくれた着替えやその他の日用品をまとめていく。
政宗は全部用意すると言っていたが、預かってもらう身なので一応全て持っていけと清が言うのでそれに従うことにした。
嬉しいことに清も付いてきてくれるのだという。
そう言ってもらって安心した名前は、初めて自分が酷く緊張していたことに気付かされた。
(……ま、見知らぬ土地だし、時代も違うし)
自分の出生を知っているのは信玄と佐助だけなのだ。正直、心細い。
それでも清がついてきてくれると言ってくれたお陰で、随分気持ちが楽になった。
「名前様、これも持っていきましょう」
そう言って清が持ってきたものは、ぼんやりと考え事をしていた彼女を一瞬で呼び戻した。
名前はそれ――化粧箱を引き攣り笑いで押し返した。
「必要ないものを持っていくわけには行かないって、さっき清ちゃんが言ってたじゃん」
「まぁ! 女たるもの化粧道具を持っていかずして何を持っていくというのです」
正直、名前は化粧されるのが嫌になってきていた。
十代で化粧はまだそんなに必要ないだろう、とは彼女の自論だ。
「あのね、清ちゃん。私の普段着はこれだよ?」
そういって現在着ている、白の袷と薄藍の袴を指差した。
「この格好に化粧なんて似合わないでしょ?」
「心配御無用です」
「へ?」
「御覧下さい」
そういって彼女は立ち上がり、先程まで畳に座って作業していたものを見せた。
色とりどりの着物が綺麗に折りたたまれ紙に包まれている。
名前は気が遠くなりそうだった。
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