境征参加 | ナノ




鴬張りの廊下はきぃきぃと鳴ったが、不思議と隣からは聞こえなかった。

流石は忍者、と心の中で賞賛する。


「あのさ」


真っ暗闇の空間に、佐助のよく通る声が響いた。


「何?」

「良かったの? あれで」


あれで、というのは先程の話のことだろう。

名前は頷いた。


「うん。心配されてるの、分かったし」


佐助はその言葉に、ふぅ、と息を吐いた。
重い息遣い。名前はそう感じた。


「……ほんとはこんなこと、言いたくないんだけどさ」


言い難そうにしながらも、それでも佐助は口を開いた。


「人質って意味も含まれてるの、知ってる?」

「……ん」


軽く頷く。
すると佐助は不可解そうな顔をした。


「知ってるなら、どうして? 名前ちゃんが嫌だって言ったら、大将だって考えを変えたかも知んないのに」

「うーん。そうかも知んないけど……仕方ないし」


分かっている。名前はひたすら自分に言い聞かせていた。

ここは自分の常識は通用しない。
戦国時代。

戦の時代だ。


「……そういうもんかな」


しかし佐助は不思議と食い下がった。それでも名前は首を横に振った。


「そういうもんだよ。だってほら、……戦だしさ」


戦、という言葉を言うと、途端に名前は表情を暗くした。

そして溜息を吐きながら呟く。


「あーあ、戦争ってのはいつの時代でも嫌なもんなんだねー」

「同感。でもそれでご飯食べてる奴も居るんだよねぇ」


自分のように。

おどけて言ってみせたのだが、名前は更に表情を暗くさせた。

しまった、と佐助は頭をぽりぽりと掻く。


(そんな顔、見たいわけじゃないのに)


「今の、ごめん……」

「謝ることないって! ほら、そんな顔しないでよー」


笑ってよ、と佐助が笑顔を浮かべると、名前もまたぎこちないながらも笑ったのだった。



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