境征参加 | ナノ
小十郎は溜め息を吐くと、二人の方に向かって軽く頭を下げた。
「政宗様が迷惑をかけている。俺からで悪いが、謝っておく」
「あー、……そのこと、ですか」
「……何だ。他に何かあるってのか?」
「いえいえ全く!」
この前政宗に対して自白したような二の舞は踏まない、と彼女は必死に笑顔を作った。
小十郎はその笑顔に微妙に顔を引き攣らせたが、何も言わず彼女に手を差し出してきた。
その意味を図りかねた名前は困惑気味な顔を彼に向けた。
「……えと、」
「掴まれ。大方腰が抜けたんだろう」
「あ……すみません」
「謝ることはねぇ。驚かせたのはこっちだ」
小心者なところを見られてしまい、恥ずかしくなった彼女は顔を赤くさせ、恐る恐るといった風に小十郎の手をとった。
すると軽々と持ち上げられる。
あまりに自分自身が軽く持ち上げられたので、彼女はバランスを崩してしまい、小十郎の体の方にしがみついてしまった。
しかも、腰に。
そのことに気付いた次の瞬間、名前は更に顔を真っ赤にして、腰から手を離してしまった。
「すみませ――!?」
全て言い終わらないうちに、彼女の後頭部と地面が鈍い音を立ててぶつかった。
着物が汚れることにも気付かず無言で悶え苦しむ名前の姿を、小十郎は奇妙な生物を見るような目で見下ろした。
だが溜息を一つ吐くと、彼女の腕を掴んだ。そして勢いよく持ち上げるが、今度は名前の腕を離さなかった。
「てめぇが手を離すからだ。立てねぇんならしばらく掴まってろ」
「うう、重ね重ねすみません……」
もう痛い思いはしたくなかったので、小十郎の言葉に甘えて彼の腕に体重を掛ける。
その時、こちらを見ていた佐助と目が合った。
にこやかに笑っている。しかしその肩と唇はふるふると震えていた。
(わ、笑ってやがる!)
後で覚えておけよ、と念を送ると、見事受信したのか佐助は気まずそうにして名前の髪や着物についた葉っぱや土を払ってやった。
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