境征参加 | ナノ




城の前の広場で、炎と電撃が飛び交っている。
城の窓から女中や庭師たちが何事だと覗いていた。

幸村は勇ましい声で「烈火ぁぁぁ!」と叫びながら槍を残像が見えるくらい速く突いているし、政宗は発音良く「HELL DRAGOOOON!!」と叫びながら電撃を繰り出している。

もはや人間業ではない。

佐助が避難させてくれなければ、確実になんらかの被害が及んだだろうと名前は内心焦った。

しかし。


「……あ」


先程佐助が言った言葉の意味が分かった気がした。


(笑って、る?)


幸村と政宗は笑っていた。
それはもう楽しそうな顔で。

双方かなり激しく戦っているが、喜悦を含んだ瞳をして唇を吊り上げている。何処からどう見ても笑っていた。

それに何かが変だ。

背筋が凍るような、鳥肌が立つような、そういう類のおぞましい雰囲気がない。
そういうものを殺気というのかは名前には分からなかったが、それだけは感じ取れた。

まるで、長年のライバルが互いの力を確かめ合っているような。


「あのさ、佐助」


佐助に話しかけると、彼は幽鬼のような顔をして名前の方を向いた。目に生気がない。


「なぁに……? 俺様さ、死にたくなってきちゃったんだけど……」

「こらこら。そんなこと言わないで」

「だってあの城壁誰が修理すると思ってんのかなぁ旦那たちはさぁ! すぐに壊すから建てかえるのも勿体無いけどもしもの時のために放置もできないし! まったく戦馬鹿なんだからあの二人は……! もうちょっと周囲の状況鑑みてよねー!!」


きー! と今まで堪ったストレスを吐き出すかのようにしゃべりだす佐助を彼女は可哀相に思った。苦労の多い忍である。


「というわけで名前ちゃんも手伝ってね!」

「え、ええー!? いつの間にそんな話に!」


佐助の苦労を思って心の中で目頭を押さえていた彼女は、突然の振りに目をむいた。

佐助はさも当然のような顔をしている。


「どうせ暇なんでしょ? 手伝ってよー」

「ひ、暇じゃない! 私には本棚を作る使命があるの!」

「それを人は暇つぶしって言うんだよ」


観念しなよ、といわれて押し黙るしかなかった。
確かに本棚作りは暇つぶしだ。要るものであるが、絶対に必要という訳ではない。


「……仕方ない、手伝うよ」

「ありがとね」


溜息交じりの承諾に本気で佐助は嬉しそうになった。本当に手伝いがほしかったようである。

それを見て更に佐助が可哀相に思えた。苦労性とは厄介なものである。




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