境征参加 | ナノ



佐助に肩を借りながら歩いているために進む速度が遅い2人を置いて、伊達軍御一行様はさっさと城に向かって歩いていく。

だが突然、その進行はぴたりと止まってしまった。

何事だろうと歩を早めた佐助に文字通り引きずられていく名前は、城門の石階段の一番上で仁王立ちをしている男を見て、目をむいた。

慌てて佐助の方を見ると、彼は疲れた顔に更に疲労を湛え、げんなりとした表情で男を見上げている。


いつもの真っ赤なライダージャケットを羽織り、額に巻いた赤い鉢巻きを風に靡かせている。

そしてその両手には赤い二本の槍。


城門前にいるのは、誰でもなく真田幸村その人だった。


幸村は思い切り息を肺にため込むと、木々をざわめかせるような大音量を発した。


「そこにおられるのは伊達政宗殿とお見受けするぅうう! よくぞ参られたぁあああ!」


離れているのによく聞こえる幸村の挨拶に、政宗はにやりと笑い負けじと言い返す。


「いかにも、俺は伊達政宗だ! 城主自らの出迎え、感謝する!」


それから、耳が痛くなる挨拶を二言三言交わした後に、幸村はようやく佐助と名前の存在に気が付いた。

幸村の目がカッと見開かれる。


「名前殿ぉぉおおおお!?」

「ひぃぃい」


幸村は、名前の名を絶叫しながら石階段から彼女に駆けていった。

槍の切っ先が自分に向いているため、本能的に恐怖を感じた名前は逃げだそうとしたが、突進してくる幸村に身が竦んでその場から動けなくなった。

ズザザザー!と足元の砂利石を撒き散らかして目の前にやってきた。

名前はびくびくしながらも、借りていた佐助の肩から腕を外すと幸村に向き直った。


「ゆ、幸村。ひさしぶ……」

「名前殿ぉぉおおお!」

「ぐぇ」


感きわまった幸村にガシッと両肩を掴まれたために最後まで言えず、蛙が潰れたような声を上げた。

感動のあまりか、掴んだ名前の両肩をがくがくと揺すぶりながら、幸村は満面の笑みで喜びを表現する。手に持っていた槍はあろうことか地面に突き刺していた。


「よくぞ、よくぞ戻られたぁああああ!!」

「うわわわわわわ」

「この真田幸村、心配で心配で飯も満足に喉を通らない始末……!」


くっ、と涙を堪えるように眉をしかめる幸村の斜め後ろから、「軽く4杯は食べてたけどね……」という疲れた呟きが聞こえてきた。

食べれたのかどうかはともかくとして、心配してくれていたらしいことは分かった。

不謹慎だけど少し嬉しくなって、揺すぶられながら名前はうっすら笑みを浮かべた。

だが依然、肩はものすごい幅で揺すぶられている。段々胃のあたりがもやもやとしてきた。


(やばい)


「ゆ、ゆきむら」

「何でござろう!」

「肩、そろそろ離してほしいな、なんて!」

「ハッ!?」


名前の言葉で、幸村はようやく彼女との距離の近さに気付いたらしく、瞬時に顔を真っ赤にした。
どうやら無意識のうちの仕業らしい。末恐ろしい。


「はっ、はははっ……!」

(こ、これは!)


瞬時に「アレ」が来ると悟った名前は、両耳を塞いだ。

しかし鼓膜に衝撃波はこなかった。

幸村の喉元にあてがわれた剣の切っ先を、いつの間にか手に持った槍で受け止めていたから。



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