自身の腰に腕を回した状態で歩き始めた政宗に、半ば無理やり引き摺られていく名前は思い切り溜め息を吐いた。
その隣を佐助が歩く。
名前はふらふらと揺られながら佐助に手を伸ばした。
「助けやがれ」
「そんな上から目線の救援要請聞いたことないんだけど」
青い顔をしながらむくれた表情の彼女に佐助は苦笑を漏らしたが、仕方ないなぁと言った後、政宗の腕から名前をするりと取り返した。
「ごめんね、伊達の旦那」
「何すんだ」
「うちの旦那の『あの』叫び声、間近で聞きたい?」
「……」
佐助の一言で政宗は押し黙ったあと、小さく舌打ちをして再び歩き出した。
名前は佐助を見上げる。
「『あの』って、何?」
「武田名物その二、真田幸村の破廉恥発言」
「……ああ、『アレ』か」
彼の言葉でその時のことを鮮明に思い出して、名前はげっそりとした。ここ3週間で一体何回彼のあの叫び声を聞いただろうか。
破廉恥、という言葉だけでも十分インパクトがあるのに、そこに幸村の脅威の大声がプラスされるのだ。
聞く者の鼓膜にかかる負担は推して知るべしである。
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