境征参加 | ナノ




こんなにもこの城を懐かしく思ったことは、ない。


「ただいま上田城……お帰り私……」

「名前ちゃん大丈夫ー?」

「うるさい裏切り者!」

「あ、それちょっと酷い」


目的地である上田城の入り口。

軍馬たちを厩に入れる、とのことでようやく馬と政宗からも解放され、地上に降りた彼女は歩くのにもいっぱいいっぱいの状態であった。

初めての、しかも長時間の乗馬で足腰がやられているらしい。

今にも地面とお友達になりそうな名前を見ていられなくなった佐助は彼女に肩を貸すことにした。
いっそのことまた抱えてもいいのだが、これから会う主の叫び声を、今は出来れば聞きたくない。

はぁ、と名前は重い溜息を吐いた。


「まるで生まれたての小鹿みたいな気分……」

「え、小鹿? それ、自分で言う?」

「他にどう表現すればいいのか知らないの」

「たとえば……子豚とか」

「それは私への確かな挑戦状として受け取った。月夜ばかりと思うなよ」

「冗談冗談。子馬とかさー」

「子馬……微妙」


いつもの軽口を言い合っていると、後ろから腰に手を回されてぞわりと鳥肌が立った。
そして強くそちら側へ引き寄せられる。そしてまたあまりに勢いが良かったために胃へ圧迫感が襲った。


「うっ」

「何ヨロヨロしてんだ?」


その犯人は言わずもなが。


「だ、伊達さん」

「大丈夫か?」


気遣うような言葉とは裏腹に、彼の顔はとても楽しそうだ。

まるでお気に入りの玩具を見つけたような顔でにやりと笑う。
こんなにもにやり笑いが似合う人物と、名前は生まれてこの方出会った事がない、と思った。


「腰いてぇのか」

「いや腰というか腹というか……胃というか」

「Ha! 無理は禁物だぜ? 腰は女の命だろうに」

(どうして伊達さんが話すと下ネタみたいになるんだろう……)


受け取り方の問題か、と一瞬考えたが、彼の場合は確実にわざとだと思い直した。



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