境征参加 | ナノ



「生まれは?」

「甲斐です」

「育ちは?」

「甲斐です」

「前まで何処に住んでた?」

「カイですー」

「所属は?」

「カイデース」

「テメェ真面目に答えろよ」


(バレた)


適当に答を返していた名前に政宗は不機嫌顔だ。


「ちゃんと答えてますよ?」

「じゃあ何で甲斐しか言わねぇんだよ」

「だって事実ですから仕方ないじゃないですか」

「常識から考えてそこは奥州とか言うべきだろ」

「何処の常識ですかそれ……」

(不毛だ……)


彼女は小さく溜息を吐いた。目ざとくもそれを政宗は見つける。


「オイオイ。何溜息なんざ吐いてんだよ。こんな色男が側に居るってのに」

「……自分で色男とか言います?」

「まあ、自覚あるからな」


にやり、と笑う彼の顔は、自負している通り確かに整っていて格好いい。
彼女も言葉が見つからず反論できなかった。

それに気をよくした政宗はさらに顔を近付けた。
それに驚いて身を引いた名前の肩を無理やり引き寄せ、耳元でささやく。


「どうした、顔が赤いぜ?」

「!?」


低く、少しかすれた甘い声。
全身を駆け巡った言い知れぬ感覚に思わず耳を塞いだ。
そして政宗から距離と取り、馬の首にもたれる。そんな名前の顔は、確かに真っ赤だった。


(うがぁあああ)


何だか全身がかゆい。むずむずする。

耳から手を離し両腕を摩ると鳥肌が立っていた。かゆみの原因はこれらしい。


「……伊達さんのせいで鳥肌が立ちました」


せめてもの反抗として恨みがましく無数のぶつぶつが出来た腕を見せたが、政宗はまた人を食ったような笑みを浮かべた。


「そんなによかったのか、Ah?」

「!」


もうだめだ。彼女は何だか泣きたくなった。


(犯罪だよ犯罪スレスレの声だよ!)


耳を塞いで俯いたまま硬直してしまった彼女を、政宗は何処か満足したような顔で見ていた。

併走する佐助はその一部始終を見ていて、内心名前に手を合わせていた。


(頑張れ、名前ちゃん)


政宗のあの表情は、幾度か戦場で見かけたことがある。獲物狙う、渇いた瞳。

幸村と戦っている時の目と同じだ。

主と同じく、厄介な相手に気に入られた彼女を不憫に思い、また心の中で手を合わせたのだった。




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