境征参加 | ナノ



そしてかなりの時間が経過してから、ようやく彼女は帰ってきた。
その顔は何処か晴れ晴れとしている。

林の入り口付近に居た佐助が差し出す手ぬぐいを借りて、口元を拭う。
唇の紅が取れてしまったがもう頓着しなかった。


「随分遅かったけど」

「川まで行ってきた」

「うわ、放流したの……?」

「違う違う、埋めてきたよ!」

「モグラが可哀相」

「同感」


軽口を言い合うまでに復活した名前だったが、馬のところにまで戻って、そこで待ち構えている意地悪そうな顔をした政宗にまた顔色が悪くなった。


「Heyhey、どうしたんだい?」


理由などとうに分かっているだろう彼は、馬上から理由を求めてくる。

名前は半ば自棄になりながら答えた。


「川でゲロっきました」

「オイオイ、waferに包んで物言えよ」


ククク、と笑う彼に下から砂をぶちまけたい衝動に駆られたが、頑張って収めた。

馬上に居る政宗を少しだけ睨んでから、先に馬に乗った佐助に引き上げてもらう。

鞍の上に横乗りになり、さあ心機一転何処までも走り出そうぜ!というところで、横から腕が伸びてきた。

そして彼女の胴の辺りを掴むと、勢いよく引き寄せる。

腰が浮いた、と思ったら次の瞬間、佐助の馬から政宗の馬に移動していた。


「ぐえ」


先程胃の中の物を出したから多少楽になったとはいえ、まだ完全に治っていない。

せり上がる胃のあたりを押さえながら腕の持ち主を見上げると、ものすごく楽しそうな隻眼と目が合った。
犯人は伊達政宗だった。


「Ha! 相変わらず色気のねぇ奴だな」

「んな……何するんですか!」


キラン、と彼の目が光った気がした。



「暇つぶしだ。付き合え」

「ヒィ佐助助けろぉおお」


隣りで並走している佐助に助けを求めた。
しかし。


「ごっめーん。無理☆」


片目を瞑って手を合わせられた。
血の気が引いた気がした。


「絶対幸村に言って給料減らしてもらうからなぁぁぁ」


彼女の叫びも空しく、並走していた馬は離れていった。




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