境征参加 | ナノ
もういい、とそっぽを向いた名前は、顔を真っ赤にしながら馬の鬣にしがみ付いた。
草の匂いがする。
いきなり飛びつかれた馬は一瞬びくっとしたものの、訓練されているため暴れるようなことはしなかった。
あからさまにいじけている名前に、佐助は苦笑する。
「そんな怒んないでよ。ごめん、今のもさっきのも俺様が悪かったから」
「佐助はもう少し乙女心とかそういうのを学んだ方がいいよ……」
「え、乙女? 何処?」
「今のは私が悪かった! ああそうだよ乙女じゃねぇよちくしょう!」
「こらこら。女の子がそんな口きいちゃいけないって」
「乙女と女の子の差ってなんだろうね!」
「……お前ら、漫才でもしてんのか?」
不意に横から声が入った。そちら側へ向くと、呆れ顔の政宗が並走していた。
何故か手綱を握っては居ない。優雅そうに馬上で腕組みをしている。
ものすごく危険そうだ。しかし、彼の体は不安定ではなく、寧ろかなり安定していた。
「す、すご……」
「Ha! これぞ独眼竜poseだ。Haha、素人は危ねぇから真似するんじゃねぇぞ」
「しませんよ誰も……」
(また疲れそうな人がやってきた……)
無駄に眩しい笑顔から目を逸らして、馬の頭の上に顎を乗せる。物凄い揺れだ。
(馬っていつもこんなに揺れながら走って……うぷ)
頭を直接振られたせいで三半規管に影響がもろに出る。
先程の酔いもまだ治っていないので余計に内臓への負担が重なった。
もう、だめだ。
「さ、佐助……」
「何?」
「もうやだ、下ろして……」
「何いってんの」
「……出る」
「何が……って、え?」
「真面目に……うっ」
「ちょ、道開けてェエエ!」
彼は俊敏な手綱さばきで隊を抜け出した。
政宗や小十郎などは何事だと驚いて、後に続く隊の列を止める。
全員が馬に乗っている騎馬隊のため、辺りは馬の鳴き声で騒然となった。
そんな中、無事林まで連れてきてもらった名前は、よろよろと林の奥に向かったのだった。
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