境征参加 | ナノ




「ほっぺた痛い」

「ごめん」

「あの、誠意とか優しさとか入っていない気がするのは俺様だけ?」

「ううん」

「確信犯かよ!」


伊達軍から一頭借りた馬の上に、佐助と名前は乗ることになった。

勿論名前は乗馬経験なんてない。
よって必然的に佐助が操縦することになるのだが。


「あのー、名前さん? ものっすごく操りにくいんですが」

「頑張れ」

「うわ何て素っ気ない応援だろう。俺様泣きそう」

「……はぁ」

「え、何。無反応? しかも今溜息ついたよね」


現在仲は宜しくないらしい。
といっても、名前が一方的にだが。

手綱は佐助が握っている。そして、名前は佐助と手綱の真ん中にいる。

だが現在はわざと彼と距離をとっている。
恥ずかしいとかそんなものではない。手綱を握りにくいように、という考えの下のれっきとした意地悪である。

彼女は既に横抱きという恥の塊みたいなものを経験済みだったため、馬に相乗りなど全く恥ずかしく思わなかった。
むしろ助かったと一瞬思ったくらいである。

しばらく経つまでは。


「……!」

「どしたの?」


走り始めて一、二時間は経っただろうか。
大人しくしていた名前が突然顔を歪ませてもだえ始めた。

すぐに気が付いた佐助は心配そうに彼女の顔を窺う。


「え、どうしたの? まさかまた酔ったとか?」

「お、……」

「お?」

「お、お尻痛い……」

「ぷふー!」


名前の不意の申告に、佐助は笑いを抑えることができなかった。

途端、痛さと羞恥ゆえに少し涙の滲んでいる名前に睨まれる。


「……幸村に訴えてやる」

「まぁまぁ。でもさ、よく考えてみてよ。一、二時間無視され続けて、やっとの言葉が『お尻痛い』だよ? もうこれは笑うしかないって」

「あーあ、こいつ怪我とかしないかなー!」

「何の呪いだよそれ」




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