境征参加 | ナノ
横になった名前は胃を落ち着かせるために目を瞑ることにした。
が、横になった途端、次々と疑問が湧いてきて、何だかお腹の当たりがむずむずとしてきた。
(……流石にこの体勢は、ね)
少し考えてから、至極ゆっくりとした動作で彼女は起き上がった。
佐助が怪訝そうな顔をしながらもお茶を差し出してくる。
「あれ。もう少し寝とけばいいのに」
「聞きたいことがあって」
よいしょ、と体を起こした名前は、佐助に手渡された湯呑みを持ちながら政宗に尋ねた。
「あの、何でここに伊達さんたちがいるんですか? 約束じゃあ7日後って……」
「What? お前、聞いてないのか?」
「へ?」
目を丸くする名前に、佐助はあちゃー、というように頭をかいた。
「あ、言ってなかったか」
忘れてたよごめんねー、と片目を瞑りながら笑う佐助は声を潜めて言った。
「実は、名前ちゃんが出てる間に事態が急変しちゃって」
「?」
「織田の魔王がさ、美濃のマムシを倒しちゃったの」
「美濃のマムシって……もしかして斉藤道三!?」
「うん」
名前は目をむいた。そんなはず、あるわけがない。
「な、なんでそんなに早いの……」
「それが分かんねぇから、俺らも来たんだよ」
前を向くと、強い瞳と目が合った。
コトン、と卓に湯飲みを置いて、政宗は口を開く。
「事態は急速に流れてやがる。7日なんて悠長なことは言ってられなくなった」
「織田には忍が通用しないからね。情報が全く手に入らなくってさー」
佐助が政宗の言葉を引き継いで、困ったように笑った。
「今までに部下を何人も行かせたけど、帰ってきたのは何と、零」
「うわぁ……」
「俺様が直々に行ってもいいんだけど、ばれない自信ははっきり言ってないんだよねー」
「そ、そんなに危険なとこなの!?」
「まーねぇ」
「魔王の住処……さながら、尾張は魔界だな」
クク、と低く喉を鳴らして、政宗が悪い冗談で皮肉く笑った。
けれどその目は、向けられた者が思わず身が竦むほど鋭いものになっている。
「そこの忍が頑張って情報を持って帰ってもだ。相手にバレりゃあ意味はないだろ?
そこで、俺たちは同盟締結がてら、今後の話し合いをしにきたわけだ。You see?」
「なるほど……」
あらかた筋は理解できた。
とりあえず時間が一刻も惜しいらしい状況らしい。
(……何で茶屋で休憩してんだか)
そう思ったのが表情に出たのか、政宗がにやりと笑った。
「もうじき甲斐につく。これはただの休憩だ」
「そ、そうですか」
一瞬心を読まれたかと思って名前を置いて、さて、と政宗は立ち上がると、座敷を後にした。
それに小十郎と成実も付いていく。
どうやらそろそろ上田城へ向かうらしい。
しかし。
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