境征参加 | ナノ



それから少しして、街道の側で発見した茶屋の少し手前で、休憩を取るべく地面へと降り立った。

いきなりの落下の感覚にジェットコースターみたいだ、と名前は出そうになる悲鳴を押し殺す。

地面に降り立つと手を添えながら名前を地面に下ろすと、佐助は「ちょっと待っててね」と彼女に告げ近くの林に姿を消した。

いぶかしんだ名前だったが、数分後現われた佐助の姿に思わず手を打つほど納得した。

渋い柿色の流しにオレンジ気味の少し長めの髪は後ろで適当に結わえてある。トレードマークの緑のペイントは消されていて、例によって気配は希薄なものであった。

そう。佐助は、少し前に名前と上田の城下町に下りた時扮していた町人の格好をしていたのだった。

忍装束のままで茶屋に入るのは悪目立ちが過ぎる。


「準備は完了、っと」


じゃあ行こっか、と佐助に連れられて茶屋の方へ歩き出した。

名前はというと、胃の中がグルグルと大変なことになっていたので、実をいうと「団子とか食べてちょっと一息」という気分ではなかった。

だが、何分佐助は名前を抱えて走ってきている。
疲労は相当だろう。


(頼むから空気読んでね私の胃……!)


あー、という気の抜けた声を出しながら気持ちよさげに肩を鳴らす佐助は、傍らをよろつきながら歩いている名前に話しかけた。


「何か食べる?」

「……おぇ」

「擬音で返事しないでくれるかな」


白湯頼んだげるよ、と小さく笑いながら茶屋の暖簾をくぐり、佐助は店の入口付近にいた店の人間に気軽な声で話し掛けた。


「今って座敷空いてるー? 連れが気分悪くしちゃってさぁ」

「あら。今かなり混んでましてねぇ……」


店の中に充満する甘い匂いに手で口を覆う名前を支える佐助を見ながら、気の毒そうに女性は少し悩んでから、やがて二人を店の奥へと案内した。

比較的広めな店の中は人で殆ど席が埋まっており、かなり繁盛しているようだった。

しかし、いる人いる人全て。


「……青い」


店に居る客は全員、強い青の服――しかも形や脇に差す刀から察するに戦装束を着ている。
異様な光景だ。

何だか青い色には複雑な思い出がある佐助と名前はこっそりと顔を見合わせた。

嫌な予感がびしびしとする。

そして、二人は悪夢と邂逅した。


「Ah? 武田の忍に、あの女じゃねぇか」


女将に案内された座敷につくと、先客がいた。

聞いたことのある声。見たことのある茶色い髪、蒼い装束。
そして鷹のような鋭さをもつ隻眼。

名前の中で「会いたくない人ランキング」の上位にがっちりランクインしている伊達政宗が、不遜な態度で茶を啜っていた。


「「げ」」

「んだよ、揃ってその面は」


固まる二人と不機嫌な政宗を、女将はほっとしたように微笑んで、二組みを交互に見やる。


「あら、お知り合いですか?」

「「いいえ、全く」」

「テメェらいい度胸してんな……」


女性の言葉に佐助と名前はそろって声を上げ、首を左右にぶんぶんと振った。

政宗はぴくぴくと米神に青筋を浮かべている。

彼は乱暴に自分の隣りの部分の畳を叩いた。


「水くせぇ。おい、早くあがれ」

「ねー俺様たちやっぱ椅子にしてもらえなーい?」

「何か私元気出てきた。佐助、もういっそ帰らない?」

「人の話聞けよ」




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