詭計多端



ユーリスィーズはレオンハルトの両腕の消毒を済ませた後、傷痕から慎重に硝子の破片を取り除いて行った。

「それにしても一体、何をしたらここまで両腕がぐちゃぐちゃになるのです?」

「硝子の上で匍匐前進だ。」

「成程。馬鹿なんですね。」

「馬鹿で悪かったな!仕方ねえだろ、撃たれて意識のない奴を回収しなきゃなんなかったんだよ。」

「ああ、私が医務室に担ぎ込んだ男ですか。あんな刺青だらけの極道者、貴方はあれが善良な一般庶民だとでも?」

レオンハルトの両腕に包帯を巻き終えると、ユーリスィーズは使用した道具を片付けつつ吊り上げたままの目を向けた。

「どうせ同業同士の抗争だと相場は決まってる。貴方がここまで負傷をしてまで救出をする価値は━━、」

「黙れ、リッセ!」

この場にビオレッタが居る手前、急いて粗野な口調で一喝してしまった。

吃驚して刮目しているユーリスィーズに対して強く言い過ぎた、と、直ぐ様レオンハルトは場を取り繕うべく、弁解をした。

「今、この場でその討議を俺達がする必要はないだろ?無意味な言い争いはしたくないだけだ。だいたい、こんなもん怪我のうちに入るかよ。肉体(カラダ)の強さにだけは自信があるんだ。」

「それは承知しておりますが。しかしだからと言って、不死身な訳ではないでしょう?貴方の我が身を省みぬ行動、評価は出来ません。是非とも、肝に命じておいて下さい。」

「ああ、もう、勘弁してくれよ。お前のせいで頭が痛くなって来た…。」

「それはそれは、誠に申し訳御座いません。」

ユーリスィーズは表情も口調も変えず、全く感情の籠もっていない謝罪をする。

「貴方はそもそもが、非常に死に近い存在なのですよ?もっと自覚して頂きたいものですね。」

普段はしない抽象的な彼の言葉を不思議に思い、レオンハルトは視線を上げた。

「この世界で唯一、『死神に愛された男』なのですから。」

シャツを羽織らせようと広げたユーリスィーズから乱暴にそれを引ったくると、レオンハルトは心情を閉じ込める様に無言で釦を閉めた。



二人の会話が途切れた頃合いを見計らい、ビオレッタがおずおずと話し掛けて来た。彼女はずっと、機会を伺っていた様だ。

「あの…、ごめんなさい…!またボクのせいでそんなケガさせちゃって…。」

レオンハルトは襟元を整えつつ彼女に一瞥はくれたものの謝罪の言葉は完全に無視して、ノエルに視線を遣った。

「おい、ノエル。先程から使い走りにして申し訳ないが、ビオレッタを医務室に連れて行ってやって欲しい。彼女はあの男の連れなんだ、軍医殿に彼の容態について説明するように伝えてくれ。」

「ちょっと…何だよ、それ!少しくらい話しを聞いてくれてもいいだろ!」

「元帥殿が戻って来られる前に、さっさと行ってくれ。面倒くせえから。」

「どうしていつも、キミはそういう言い方するんだよ!」

噛み付くビオレッタに対して、レオンハルトは眉を下げて困惑した表情で微笑をした。何処か諦念を含んだ苦笑にも似たものではあったが、滅多にない温和なその様に彼女は戸惑った。

「後でお前と話す時間を作るよ。だから今は、遠慮して欲しい。」

レオンハルトの下手な言葉に加え、隣のユーリスィーズにはじろりと酷く冷淡な視線を向けられた。彼はまるで、『黙って従え』と言わんばかりだ。

それ以上ビオレッタは抗言する事が出来ず、ノエルと共に司令長官公室を後にした。

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