「ほう!すると貴公はズィーガー参謀殿の子息か?」

ノエルの姓を聞いたロザーナは驚嘆の声を上げた。

「はい。父をご存知ですか?」

「貴公の父君は、私が五秒で仕留められなかった数少ない人物の一人だぞ。誇りに思うが良い。」

「え、あ、あの、父と一体何が…!?」

狼狽するノエルを横目に、レオンハルトも些かその出自に吃驚していた。

━━バルヒェット殿の息子だったのか…。

「そうか。お前、課程正科生だったな。」

課程正科生とは、資格を取得する課程の者の事だ。

必要な単位を修得すれば修了、つまり士官学校の自主退学が認められる為、最も若い年齢での入隊が可能なのだ。謂わば、その分野の専門として今後を期待される特出した秀才とも言えるだろう。

「はい、自分は動物医療専門学校の学徒です。獣医博士を目指してます。」

━━出自が出自だ。さぞや優秀なんだろうな。

「つい新卒だと思い込んでいたが、冷静に考えて納得したぜ。」

「納得…ですか?」

「ああ。敬礼も言葉も全然なっちゃいねえ。どこの娑婆僧だよ、って思ってな。新兵訓練もまだなら、当然だ。」

「す、すみません…。」

士官学校を卒業して入隊した隊員は配属先に応じて半年から数年の初期入隊訓練、通称『新兵訓練』を受けなければならない。

当然、レオンハルト自身も入隊と同時に様々な訓練を受けた。更に彼は直属の上官━━、つまりリュユージュによる、一切の怠慢をも許されない遥かに厳格で非常に過酷な指導を受けた過去を思い出す。



「それにしても、正規隊員として配属されてないお前がどうして遠征に?バルヒェット殿が身内贔屓をする性格とは思えねえんだが。」

それら一定の訓練課程を終えても、通常は直ぐに策戦に参加は出来ない筈だ。況してや国内での任務ではなく、国外遠征ともなれば尚更だ。

「今回はヘルガヒルデ元帥御自が直接お声を掛けて下さいました。閣下の仰る通り父は自分の参加に反対で、出港直前まで元帥殿に抗議していたそうです。」

ノエルは眉を下げると、悲し気に瞳を伏せた。

「閣下は、バルヒェット・ズィーガーに自分という息子がいる事はご存知でしたか?」

「いや。と言うか、そもそも既婚者だとも知らなかったよ。家庭を持っていらっしゃるのは当然の御年だが、高級将官である彼が俺なんかを相手に家族の話しをする訳ないだろ。」

レオンハルトは煙草を揉み消すと、話題を変えた。

「それより、その閣下っての止めてくんねえか?虫酸が走る。」

その時、エヴシェンが失笑を漏らした。

「いや、悪い。ずっと堪えていたんだがな…。」

揶揄い口調のエヴシェンに対して、レオンハルトは殊更に不機嫌そうな表情を向けた。

「言っとくが、俺だって好きでそう呼ばれてる訳じゃねえぞ。」

「し、しかし、他に何とお呼びすれば…。」

戸惑うノエルに、ロザーナが助け船を出す。

「それは至極当然だ。訓練兵がまさか、貴殿に対して敬称無しで呼べる訳もなかろう。」

「そう言われてもな…。ああ、もう、面倒くせえ。じゃあいいよ、副隊長で。」

「副隊長?何だよ、それ。」

「関係のないお前に説明する必要はない。」

レオンハルトは厭わしげにエヴシェンを威圧すると、ノエルに視線を遣った。

「そんな事より、ノエル。お前の用件は何だ?最初に断っておくが、頼み事ならどんな内容のやつでも絶対に聞かねえぞ。」

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