自身の権限を取り戻す為に便宜を図ってもらえるのではとルーヴィンに仄かに期待していたクラウスは、その言葉に顔色を失い、愕然としている。

ルーヴィンの意外な一言は、全員の間に混乱と動揺を招いた。



「貴方まで何を言い出すのよ、兄さん!!あの女に弱味でも握られているの!?」

ベネディクトの激昂は静まるどころか勢いを増し、まるで根拠のない言い掛かりをつけてルーヴィンに突っ掛かる。

「馬鹿な事を言い出す前に、ヘルガヒルデの要求の内容を正確に理解しなさい。」

「要求の内容ですって?そんなの…!」

尚も反論をしようとするベネディクトを、ルーヴィンは威迫する。すると彼女は語尾を詰まらせ、口を噤んだ。

「何も、ヘルガヒルデはクラウスの退役を要求している訳ではない。ただ、第一隊の指揮に関しては口を出すな、と。そう言っているだけだろう?」

「ああ、全くその通りだ。君以外に話しの通じる奴がいなくて、本当に困るよ。」

ルーヴィンを軍議に呼んだ当人はヘルガヒルデであった。

「しかし、ヘルガヒルデ。貴様、粗忽者だな。私には、軍に関する一切の権利は無いのだが。」

彼の言葉の通り、実質的にはルーヴィンがどれだけ意見を述べようとも、最終的な決定権を持つのはベネディクトに他ならない。

「そんなの関係ないね。なあ、そうだろ?ベティ。」

窃笑している、ヘルガヒルデ。

その表情から彼女の真意を観取したベネディクトは歯を食い縛り、屈辱に耐えた。

「いいかい?何も俺は、全権を渡せなんて言ってない。俺のする事に割り込んで口を利くなってだけさ。簡単だろ?」

ベネディクトの蟀谷(コメカミ)には、青筋が浮かんでいる。

「両者の提案を━━…、了承します。」

統帥の宣言と同時に、クラウスは総統としてヘルガヒルデに対する全ての権限を失った。

そして彼女は、第一隊隊長として復職を認められた。



「よし!満場一致だな。」

非常に険悪となった、雰囲気の中。

その当事者であるヘルガヒルデの笑顔は何とも相応しくないものであったが、それを言及する者は誰一人として居なかった。

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