「ところで、どこから来たの?家は近いの?」

「え、どこって…。俺の家は、」

会話の途中。ばたばたと走り抜けて行く数人の足音が響いた。ドラクールはびくりと反応する。

ギルバートはそっとカーテンを閉めた。

「とにかく、今はまだ出ない方がいい。あんた、あんな大人数の保安官に追われてるのか?何したんだよ?」

「俺は何もしてねェって、本当だ!街を歩ってただけだよ!」

「見世物小屋に売られるとか?」

冗談半分でアンジェリカはそう笑う。

「私もこの色は結構、珍しいみたいなの。」

彼女は赤毛と金髪の混じったストロベリーブロンドと呼ばれる、桃色の地毛を持つ。以前山賊に捕らえられた時にそれをざんばらに切られたのは、単品でも値が付く程の希少価値があるからだ。

「だから珍品同士、仲良くしましょ。」

そう、アンジェリカは笑顔で右手を差し出す。

「…何だよ?」

ドラクールはその手を不思議そうに眺めている。

「握手よ!ほら。」

アンジェリカは彼の右手を取り、半ば無理矢理に握手を交わした。

「ちょっと!すごい冷たい手ね!」

「そうか?」

「あなたって絶対、血行が良くないのよ。顔も青白いし。」

苦笑しながら自分の向かいに腰を下ろすギルバートに対して、ドラクールは右手を差し出した。

「ああ、よろしく。…冷たっ。」

ドラクールはまじまじと自分の手を見詰めた。



「これ、何だ?」

差し出された飲み物は苦手な珈琲ではなかったが、何かは分からず不審そうに訪ねる。

「温めた牛乳よ。うちを見れば分かると思うけど、蜂蜜も砂糖も入ってないからね。」

その言葉に従い、ドラクールは室内を見渡す。

一つの空間に台所も居室も寝室も収まっていて広さは無い。建物自体も相当な築年数と思われたがきちんと掃除は行き届いており、とても清潔だと感じた。

━━俺が閉じ込められていたあの暗い塔より全然マシだと思うが…。何か不満があるのか?

彼には部屋と食材の関係が結び付かなかったが、警戒する理由はないと牛乳に口を付けた。

「やっぱ、あったかいもんは何でも美味いな。」

「何だか釈然としない感想ね…。」

アンジェリカははあーっと肩を落とすも、ほんの少し綻んでいるドラクールの口元を見ると悪い気はしなかった。

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