「…そうだ。」
ドラクールは再び椅子に腰を下ろすと、伏せ目がちに話す。
「俺には、この大陸が炎に包まれる絶望的な『未来』が視えるんだ。誰かが、世界を目茶苦茶にしようとしてる。」
何処か憂いを湛えた儚げな、印象。語る内容も相まって、胡乱さは拭えない。
「俺に何が出来るのかは分からない…。もしかしたら、何も出来ないかもしれない。未来は変えられないかもしれない。それでも俺は━━、」
彼は切に訴えながら、膝の上で拳を強く握る。
「何もせずに此処に留まっているだけなんて、絶対に嫌だ。」
ドラクールは顔を上げると確りと正面を、未来を、見据えた。掴み取る為に。
「俺は戦う。抗う。例え、勝ち目が無くても…!」
「そうじゃない。」
歯を食い縛るドラクールに対して、リュユージュは隣から声を掛けた。
「負ける確率ではなく、勝てる確率を考えるんだ。」
そして手を伸ばし、彼の額を軽く指で弾いた。
「って、僕は母親に言われた事があるよ。」
「ああ。変人のか。」
「そう。変人のね。」
二人の遣り取りに泡を喰わされたマクシムは眉間に皺を寄せて顎をしゃくれさせている。それはユーリスィーズも同様の心境だったが、意外な事に彼は微かに口角を上げて微笑していた。
「しかし…、使えねェって言うんなら俺を天辺に持ち上げてどうすんだよ。ただのお飾りか?」
「いいえ、その様な目的では御座いません。」
自身に向けて嘲笑を漏らすドラクールの言葉を、ユーリスィーズがきっぱりと否定する。
「貴方様は、存在そのものに意義があるのですよ。セイクレッド幕僚長閣下。」
ユーリスィーズのその瞳には、ありありと恭敬の意が宿っていた。
「御自覚がなくとも、シュラークの隊員は一人の例外なく貴方様に心酔する事でしょう。この私を含め。」
彼は左胸に手を当て、恍惚とした表情を見せた。
「私の事はリッセとお呼び頂ければと。是非に。」
リュユージュはユーリスィーズを指差し、言った。
「つまり、こういう事だ。良く分かっただろ?」
「いや、一つも分かんねェぞ!?」
ドラクールは当惑と逡巡から追い込まれ、声を荒らげた。
「君は嫌悪しているみたいだけど、漆黒は神の色。それを持つ事を許された君は、尊崇の形代だ。」
対照的にリュユージュは淡々と、そして堂々と言い放つ。
「世界は、君に平伏する。」
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