翌日も快晴となり、窓の外の青い空に浮いた白い雲が太陽の光りを帯びてとても眩しい。

顔を覆い隠すものがなくなったドラクールは額に手を翳して目元に陰を作りつつ、海軍の軍艦が停泊している眼下の岸壁を眺めていた。

高く髪を結い上げられたのは彼には初めての経験で、少しでも動くと不自然に引っ張られる蟀谷や襟足が頻りに気になっている様子だ。

「あんまり弄るな。乱れるだろ、せっかく結ってやったのに。」

自身の書斎にて書類を簡単に片付けているリュユージュにそう注意され、ドラクールは手を引っ込める。

しかし慣れない髪型よりも、果たして此処が何処なのか、そして自分が居る理由は。彼はそれらに意識を奪われていた。



「これから二人の男がここに来るけど、君は椅子から立ち上がる必要も言葉を発する必要もない。つまり、君の役割はただ黙って座っている事だ。」

そう促されてドラクールが椅子に腰を掛けて暫くした後、扉がノックされた。

「入れ。」

二人のうち先に訪れたのは、ユーリスィーズであった。

ユーリスィーズは室内の状況を瞬時に把握した。

リュユージュの前で在っても椅子に腰を下ろしたまま遠慮無く足を組んでおり、尚且つ上席に座するドラクールを最高位の人物と判断し、彼に向かって敬礼をした。

当然の事ながらドラクールが答礼をする様子はなく、代わりにリュユージュがそれをした。

敬礼を解いて歩み寄るユーリスィーズは、ドラクールに注視する。

彼に対してまず第一に、石像の様な清高な印象を抱いた。

整った小さな輪郭と、色こそ特殊だがはっきりとした幅広の二重を描く大きな瞳。通った鼻筋と控え目な小鼻に加え、形の良い唇は引き締まっている。

更には、最近は赤みを帯びて来た透明感のある滑らかな肌。

非常に眉目秀麗な人物だと感心しつつ、ユーリスィーズはドラクールから視線を外した。



「マックスももう、来ると思うから。」

リュユージュに椅子を勧められたユーリスィーズが腰を下ろした瞬間、再び扉がノックされた。

「入れ。」

リュユージュは再び同じ言葉を繰り返す。

「将補マクシム・オルディア、入室致します。」

敬礼しようとしたマクシムの手は一瞬、動きを止めた。その視線はドラクールに、正確にはその異形の姿に釘付けだった。

━━まあ…、普通は驚くよな。これが当然の反応だろ。

自身と視線を合わせても動揺の片鱗すら感じさせなかったユーリスィーズは特殊だと、ドラクールはちらりとその横顔に視線を遣った。



用意しておいた飲み物を三人に提供すると、リュユージュは改めて席に着く。

「紹介するよ。」

リュユージュの目的の一つは彼等の引接だった。

彼は二人の名前と簡単に役職を紹介すると、気鋭に満ち溢れた翡翠色の瞳をユーリスィーズとマクシムに向けた。

「こちらは、セイクレッド。」

━━え!?俺の本当の名前を、何でこいつが…!?

黙っていろと言われた指示に従いドラクールは言葉は発しなかったが、僅かにその闇色の目を見開いてリュユージュを凝視していた。

「諸事情により今は彼の姓は明かせない。けれど、僕が賛仰する人物だ。」

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