「けれども僕の本当の思惑なんて伝わる筈もなく、レオンは必死に懇願し続けたよ。」



━━頼むから、その手で俺を殺してくれ。

━━生まれた事そのものが間違いなんだ。

━━心に闇を抱える俺の命を、早く奪え。

━━意味ねえんだ。抗いながら生きても。



「暴れる彼をどうにか留置したものの、食事はおろか一滴の水分すら摂ろうとはしなかったんだ。」

「水も飲まねえんじゃ、数日ももたねえだろ…。」

鎮静剤を打って眠らせ、その間に無理矢理に点滴で栄養を摂らせもしたが、結局そんなものはその場しのぎでしかなかった。

「レオンはどんどん衰弱していった。仕方がないから数人の部下に命じて押さえ付けさせて、とりあえず僕が水を飲ませたよ。無理矢理、口移しでね。」

人工呼吸などの医療行為と同様の意味のものであると理解はしていても、マクシムは何処か及び腰になる。

「そしたら、どこにそんな元気が残っていたのかは知らないけど怒鳴られた。『汚いから止めろ』って。」

「おお…。不敬罪で処罰されてもおかしくねえ発言だな。」

「僕も罵られたのかと思ったけど、違ったんだ。」

━━あんたは貴族か何かだろう!?俺みてえな下賤な罪人なんかに触んじゃねえよ!!

「『汚い自分に触るな』、と。そういう意味だったらしい。」

リュユージュは過去を紡ぎながら、粗野で壮烈な、それでいて何処か至純で無垢なままの琥珀色の瞳を思い出す。






レオンハルトは息を弾ませながら、零れて口元を伝う水を肩で拭った。

「いいか、俺を生かしておいた事をあんたは絶対いつか後悔するぜ?だからその前に…、さっさと殺せ。」

そして翡翠色の瞳を鋭く睨み付けるも、リュユージュからは動じる素振りなど全く感じられなかった。

「随分と安く踏んでくれたな。」

その言葉にレオンハルトは眉間に深く皺を寄せ、疑念に満ちた表情を見せた。

「君に科すべきは刑は、断首じゃない。踏み行うべき道筋を示す事こそ、真の贖罪となる。君の『義』を、見せてみろ。」

リュユージュはレオンハルトの腹に跨がったまま床に手を突くと、更に顔を寄せた。手枷と足枷で四肢は自由にはならずとも、レオンハルトは反射的に縮退する。



「要らねえんだろ?だったら君の全てを、僕に寄越せ。」

数回の瞬きを繰り返した後、レオンハルトは哄笑した。

無礼極まりないレオンハルトの態度にリュユージュの部下達が殺気立つも、彼の背中はそれを無言で抑圧していた。

「下らねえ!俺が温和しく、あんたに従うと思ってんのか?」

「何でだよ、従う必要なんかないだろ。僕に価値がないと君が判断したなら、その時は━━、」

リュユージュは指先でレオンハルトの長い前髪を梳く様にして、彼の額を顕にさせた。覆うものの無くなった琥珀色の瞳をしっかりと見据えると、静かに言葉を放った。

「殺せばいい。君が、僕をね。」

予想外の顛末にレオンハルトは先程の威勢をすっかり無くし、ただただ唖然とする他なかった。

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